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  <title>あっ死んでる</title>
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    <title>黒き団長との闘い</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>王子「団長&hellip;&hellip;我が宿敵&hellip;&hellip;」<br />
　まさかのフォースの力を信じる展開に全王子が泣いた。<br />
<br />
それは難なく団長を（動画を参考に）撃破した時のこと。<br />
<br />
王子「今だレアン！　出撃！　団長をスルー！」<br />
<br />
自滅していく団長を眺めながら、王子は黙々とレアンにパスされた鎧を切り裁いた。<br />
<br />
団長「我との闘いを避けるか&hellip;&hellip;！」<br />
王子「お前うちのレアン（未CC50運用）じゃ抱えられないから」<br />
団長「グアアアアアア&hellip;&hellip;！！！」<br />
<br />
どうにかこうにか団長の最期を見届けると、グレーターデーモンとかいうおっさんが出現する。<br />
<br />
大悪魔「団長は捨て駒」<br />
団長「ふぇぇ」<br />
王子「くっ許せないぜ！」<br />
大悪魔「フアハハハ魔界へ」<br />
王子「追うぜ！」<br />
<br />
こうして王子は魔界という恐るべき不利空間へと身を投じるのだった。<br />
<br />
アンナ「ごっ&hellip;&hellip;ごせん！？」<br />
王子「そんな&hellip;&hellip;だがストーンゴーレムにスルー可能という攻略法を付与する運営だ、そんな無茶ぶりをただ投げ飛ばすようなことをするはずがない」<br />
団長「その通り」<br />
アンナ「団長さん！？」<br />
王子「お前&hellip;&hellip;ドットがボロボロになってるじゃないか&hellip;&hellip;めっちゃ優遇されてるな&hellip;&hellip;」<br />
団長「ゲストユニットだからな。俺の暗黒オーラを使うがいい」<br />
王子「ありがたく頂戴するぜ&hellip;&hellip;来い、ラストミッション！」<br />
<br />
黒ゴブリンを対策したくない王子はここで勝負（☆３）を決めることを決意。<br />
しかしライフ１かつ攻防50%OFFは思った以上の厳しさを見せる。<br />
<br />
王子「行く先は魔界だ。正直（カリスタが）死ぬかもしれない、それでもついてきてくれるか？」<br />
スピカ「エルフの戦士に恐れはないわ。悪魔なんかあたしのエクセレントな弓技でイチコロなんだから！」<br />
ソーマ「使い続けてくださる限りどこまでも、たとえ魔界にだって付いていきます、王子」<br />
ナナリー「まあ、これだけが取り得ですから」<br />
ヴィンセント「まさかあの夜の出会いがこんなことになるとはな。ま、乗り掛かった船だ。最後まで付き合わせて貰う」<br />
カルマ「今こそあなたのために不死の力を奮うときだと、私には分かるのです」<br />
パーシス「火力とこの国、そして王子、あなたを想う気持ちは誰にも負けない」<br />
ノエル「火力でわらわに勝とうなど笑止！」<br />
クリッサ「私は一人でだって戦えるぞ、王子のためになら！」<br />
モミジ「この呪われた力が、この呪われた場所でこそ力を発揮する。皮肉なものだ」<br />
クローディア「どこへでもこの剣を振るいましょう、あなたの隣に居るために」<br />
ヒエン「主の命とあらば、何なりと」<br />
ヒーラーたち（祈りを捧げる）<br />
アリア「言ったろ&hellip;&hellip;"ずっとそばにいる"って。」<br />
<br />
王子「お前ら&hellip;&hellip;」<br />
王子「行こう」<br />
<br />
王子（寝室目当てだったけどパーシスのレベル上げといて良かったなァ&hellip;&hellip;）<br />
ということで魔界編へ突入。<br />
団長のスキル点火を忘れる/パーシス配置を忘れる等のニアミスを乗り越え、動画を参考にしつつ前島にソーマ（50CC40）とスピカ(50CC70)、中島にナナリー(未CC50)、ヴィンセント(50CC50台)、パーシス(50CC20台)を配置、万全の物理攻撃耐性を整える。<br />
団長を庇うように王子を配置、上島にはヒーラーを二枚。セオリー通り青デーモン登場と同時にソーマを撤退、ヒーラーを置いてクリッサ(50CC70台)に青デーモンを討たせる作戦に出る。<br />
最初は団長が動き出した後のデーモンラッシュを１ブロ＋王子で抑えようとしていたが失敗、最初のラッシュの直後からアリア（覚醒30台）でコストを稼ぎ、モミジ(未CC40)で大悪魔の前を歩く二体を捕まえ、後ろの一団が到達する前に鬼神力でカタを付ける作戦に出る。さらに駄目押しでヒエンにも後ろからスリケン攻撃を指示（これがけっこう削れる）。<br />
だが&hellip;&hellip;ッ<br />
<br />
王子「なぜだッ&hellip;&hellip;なぜッ&hellip;&hellip;あとほんの少しなのにッ&hellip;&hellip;！！！」<br />
<br />
王子が一歩、一歩だけ競り負ける。<br />
団長と王子が蹴散らされた隙に不死カルマ(20台)を差し込んでギリギリ☆２を獲得するが、とても完全勝利とは言い難いし団長の秘蔵ッ子の副団長のコスト下限が成立しない。<br />
<br />
王子「力が欲しい&hellip;&hellip;！　あとほんの少し、ほんの少しでいい&hellip;&hellip;だが既に称号は救世主、これ以上どうすれば&hellip;&hellip;」<br />
アンナ「王子」<br />
王子「&hellip;&hellip;どうした政務官、似合わない兵装なんか」<br />
アンナ「私も魔界へ行きます、王子」<br />
王子「そんな&hellip;&hellip;お前、一発でも鞭悪魔の攻撃を喰らったら終了なんだぞ？　それに射程が足りるかどうか&hellip;&hellip;」<br />
アンナ「それでも、どうか私を編成してください。お願いします、必ずお役に立ちます。王子のために、全力であなたの魔界攻略を、サポートさせていただきます」<br />
王子「アン、ナ&hellip;&hellip;」<br />
<br />
アンナ「あなたは国を救った王子、私はそれを支えた政務官」<br />
アンナ「私は戦場には立てませんでしたけど、ホーム画面からずっとあなたの戦いを見守ってきました」<br />
アンナ「田園を耕していた頃から、不死の王を討伐するに至るまで」<br />
アンナ「しかしこうしてユニットになるまで、私は本当の戦場を知りませんでした」<br />
アンナ「だから&hellip;&hellip;弁えています、私と、王子の、距離感」<br />
アンナ「だけど、だけど、私の"全力サポート"は&hellip;&hellip;それを、ほんのちょっとだけ、埋めてくれるんですよ」<br />
<br />
王子「射程&hellip;&hellip;ッ、1.2倍ッ&hellip;&hellip;！！！！」<br />
<br />
アンナさんこそが救世主だった。<br />
急遽上の島のヒーラーを１マスずらして配置し、青デーモン討伐後クリッサたち前衛を撤退して王子のできるかぎり傍にアンナさんを配置。<br />
全力サポートが&hellip;&hellip;届く、届いているぞッ！！！<br />
ナナリーとヒエンのスキルを連打点火し、全身全霊で大悪魔を削り節に変える。<br />
団長のスキルの灯が今にも消えそうになる&hellip;&hellip;その時、<br />
<br />
<a target="_blank" href="//mojimoji333.3rin.net/File/hoaaaaa.JPG" title=""><img src="//mojimoji333.3rin.net/Img/1422188092/" alt="" /></a> <br />
<br />
王子「ウ&hellip;&hellip;ウオアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーッ！！！！！！」<br />
<br />
☆３獲得。ついでに白バケツも獲得。やったぜ。<br />
あとは副団長の配布を待つばかりである。</p>]]>
    </description>
    <category>アイギス</category>
    <link>http://mojimoji333.3rin.net/Entry/41/</link>
    <pubDate>Sun, 25 Jan 2015 12:15:56 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>環境研究所は今日も平和</title>
    <description>
    <![CDATA[だったはずなんだが。<br />
<br />
<br />
<br />
　荒神道草が研究室のマットレスで目を覚ますと十二時半だった。秩父連山から戻って暫くだったので疲れ切った身体は強張っていたが、どうせ夜まですることもない、コーヒーを飲んでだらだらと歩き、廊下を行く同僚たちを適当にさばきながら、気が付くとバギーを繰って温室に到着していた。胴乱には第三外来種と思しきいくつかの特徴的な様相が見られる野草が入っている。道草はこれらについての意見を仰ぐという名目でここに何でできているのかよくわからない茶を飲みにくる。<br />
「おはようございます」<br />
「おそよう、草」<br />
「おっはーみっちー」<br />
　そこにはいつもの二人がいつもどおりに居た。待折はデンと入口に置かれたサイドテーブルに座って足に巻き付いているコボちゃん（おそらく知覚を持つ種類の植物だが、具体的な分類は聞いていない）をぶらぶらさせており、エツはどう考えても尋常のサイズじゃない蘭の花弁に頭を突っ込んでなにやらやっていた。<br />
「何やってるんですか？」<br />
「なこうど」<br />
「はあ&hellip;&hellip;」<br />
　道草は待折の隣に腰を下ろし、胴乱を膝の上に置いた。<br />
「またあそこか」<br />
「今はあそこが一番いいんです。もうちょっと暑くなったら鳥取のほうにも行くつもりですけど」<br />
「ハア。茶飲め」<br />
「飲みます」<br />
　とまあ、よその喧噪もどこへやら、環境研究所の時間はゆっくりと流れていた。<br />
「今日はやたら静かですね、産技」<br />
　道草は不意に言った。<br />
「そうだな」<br />
「何かあったのかな。逆に心配になりますね、いつもあの調子だから」<br />
「何かはあったぞ」<br />
「え？」<br />
「特高だ」待折は茶をすすりながら言った。「神王勅令だとよ。NECTERの突貫調査に来てるんだと」<br />
「え&hellip;&hellip;えええ？　それってまずいんじゃないんですか？」<br />
「何でだ？　草、T-ウィルスでも研究してるのか」<br />
「してませんよ！　でもよそは何か&hellip;&hellip;いろいろやってるでしょう」<br />
「よそはよそ、うちはうち」<br />
「うーん、まあいいか」<br />
　道草も茶を飲んで一息ついた。そしてエツのほうを見つめる。彼女は既になこうどを完了したと見え、明らかに獰猛な肉食獣めいて首を振り回す蘭の花を宥めながら振り向く。彼女の視線の先には、ピギーピギーとアラーム音のように小さく騒ぐカブのようなものとか、人間の舌に近い器官を口部から出し入れしているカズラとか、薄暗く明暗しているホオズキとか、定期的に爆発して火花を散らす強化ガラスケースの中のホウセンカとか（これにケースをかぶせることをエツに納得させるために十数名の火傷を負った環研職員と数名の心理学者と一名の荒神道草を要した）、溶剤を与えなければ加速度的に増え続け四十八時間で本土を占領すると計算の出た苔とか、<br />
「&hellip;&hellip;よくないですよ！！！？？　よくない！！！」<br />
「なんでだ？」<br />
「少なくとも俺の知り得る限りウン十の条約違反が見えますね」<br />
「気にするな。人死には出てないんだ、まあウツボカズラに飲まれたりレッドビーに刺された何人かを別にしたらな」<br />
「死んでるじゃねーか！！！」<br />
「データベースの中で永遠に生き続けるさ。保険金も出したから家族も何も言ってこなかったそうだし」<br />
「隠蔽して金で解決したって話ですよねそれ！！！？」<br />
「俺は知り得る限りの事実を喋ってるだけだよ」<br />
「アアアア&hellip;&hellip;」<br />
　ともかく特高の人間をこの温室に踏み込ませるわけにはいかない。環境研究所の権威を賭けた攻防戦の火ぶたが今、落された。<br />
<br />
<br />
<br />
以下は随時更新　所在はパラレルな<br />
<hr /><br />
<br />
<br />
「特別高等警察秘密情報課のノルニル・ニーアですよっ！　このたびは神王様の勅命に遵ってこちらの環境研究所を調査に来ましたっ！」<br />
「はい、どうぞ、こちらです」<br />
「あれっ、なんか変な音がしますね！」<br />
「そうですか？」<br />
「モスキート音みたいなのがします！」<br />
「ああ、たぶん機材ですよ、環境研究所は本日も通常通り業務予定ですから」<br />
「そうですか！　ところであちらの温室は？」<br />
「あれはサンプルの保護と実験を行ってます。今日は研究員一同所内での作業に従事してますので、こちらへどうぞ」<br />
（誤魔化しようのない爆音が温室から轟く）<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
「あの！」<br />
「モスキート音、しなくなりましたね」<br />
「そうですね！　でも別のすごい音がしました！」<br />
「今はしないでしょう」<br />
「そうですね！　でもものすごーく気になりま&hellip;&hellip;」<br />
「どうしました？」<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;いいえ！　何でもありません！　研究所の中を見せていただきますね！」<br />
「はいどうぞ」<br />
<br />
<br />
「いったい何があったんだ？」<br />
「聞いてよ～～～、みっちーが勝手に電波草をチューニングしちゃったの、あれすっごく苦しそうだからやめてって言ったのに」<br />
「あなたがホウセンカ爆発させなきゃそんなことする必要なかったんですよ！　まったく！」<br />
「あの男、突然大人しくなったが」<br />
「エウロパのコミットマン系でしたねさっきの彼。たぶん彼の耳には爆発で温室に注目させておいてからに細菌兵器に関する資料を処分しようと焦る研究員の通信が聞こえたはずです」<br />
「ほう」<br />
「まあ一人ぐらい捕まるかもしれませんが、俺の論文にわざとコーヒーぶちまけて捺印を台無しにした野郎の声で放送してやったので問題ないでしょう」<br />
「なるほど」<br />
「みっちーちゃんとチューニング直してね？」<br />
<br />
<br />
<hr /><br />
<br />
「特別高等警察機動捜査隊の因幡直純ですよう。さっそく入らせてもらいますよう！」<br />
「はいどうぞ、こちらです」<br />
<br />
（小一時間）<br />
<br />
「ありがとうございましたあ！　でもおなかがすいてチェックリストが埋まりませんでしたよう！」<br />
「そうですか」<br />
「&hellip;&hellip;なんだかあっちのほうから果物の香りがしませんかあ？」<br />
「ああ、温室ですね」<br />
「中を調べさせてもらってもいいですかあ！」<br />
「ここにあの中で行っている交配実験のついでに作った採れたての完熟マンゴーがありましてね」<br />
「わ！」<br />
「水質調査の過程で作ったアオサのクッキーなんかもあります」<br />
「わあ！」<br />
「よろしければ職員食堂までお送りするバスの中でお召し上がりになっても構いませんよ」<br />
「ありがたくいただきますよう！　ありがとうございましたあ！　（ぺろり）」<br />
<br />
<br />
<hr /><br />
<br />
「特別高等警察捜査一課の桜庭蓮爾です」<br />
「大変だ！！！　バスが変動重力場に飲まれて動かなくなったぞ！」<br />
「誰だよ！！？　技研の傍に重力系近づけんなつったろ！」<br />
「な、直純さん！？　直純さん！！！」<br />
<br />
<br />
<hr /><br />
<br />
「特別高等警察捜査四課の丸狭です。上がらせてもらうわ」<br />
「はい！　ご案内します！」<br />
<br />
（小一時間）<br />
<br />
「まさかネクタールでこんなにチェックリストのクリーンな部署があるとはね」<br />
「そうですね（やばそうなのは朝のうちに運び出しましたから）！」<br />
「ゾンビでも作ってるんじゃないかと思ってたわ」<br />
「まあ、（最近の兵器流通的に重火器ほど）流行りませんからね」<br />
「それじゃあ失礼しま&hellip;&hellip;くしゅん」<br />
「はい、お大事に」<br />
「&hellip;&hellip;いいえ、っくしゅん&hellip;&hellip;あの温室は？」<br />
「あれですか？　実験に使う植物を育てているんです。生態環境部の預かりで」<br />
「見せて貰っていいかしら？」<br />
「あー&hellip;&hellip;今入ると、き、きついですよ」<br />
「きつい？　っくしゅん」<br />
（断続的に温室からくしゃみが響き渡る）<br />
「活動期なんです、花の」<br />
「活動期」<br />
「凄まじいアレルギー性の花粉をまき散らすんですよ、定時でね」<br />
（小さく黄色い煙が上がる）<br />
「&hellip;&hellip;そう、でもやっぱり」<br />
「では少し待ちましょう。花粉が収まるまで、テラスにご案内しますよ」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
『あ、待折さんですか？　大丈夫です、時間確保しました。今のうちに後ろ暗そうなのを一人ぐらい引っ張ってきますよ。あ、あ、大丈夫です、大丈夫、要するに中を見られなければいいわけですから、入口手前でしょっぴいて貰いましょう』<br />
<br />
<br />
<br />
<hr />]]>
    </description>
    <category>未選択</category>
    <link>http://mojimoji333.3rin.net/Entry/38/</link>
    <pubDate>Sun, 01 Jun 2014 05:00:08 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>手紙　前編</title>
    <description>
    <![CDATA[<div>　<br />
</div>
<div>「どうして僕は置いていかれてしまったんでしょうね。どうして一緒に逝かせて貰えなかったのかな。本当は彼女は、僕はどうして、本当に、約束したのに、でも僕は、裏切ったのは僕のほうなんでしょうか。こんなに、だけど本当に僕は、どうして僕は」</div>
<div>「恭弥」</div>
<div>「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」</div>
<div>「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」</div>
<div>「&hellip;&hellip;清花を、預かってください」</div>
<div>「一時間二圓。譲らんぞ」</div>
<div>「先輩、僕は」</div>
<div>「吾輩に言ってどうする。それを吐く相手は別にあるだろう。部屋へ戻れ」</div>
<div>「&hellip;&hellip;すみません」</div>
<div>「請求書出すからな」</div>
<div><br />
<br />
　四○四号室の窓は開いている。くすんだガラス窓と枠の間からは線路を越して快晴は新緑の上野公園が見えた。葉桜を揺らして不忍の御池を渡る風がやんわりと吹き込んでは、部屋のそこら中へ足の踏み場もなく散らかされた原稿用紙と窓際の文机へ向かう杏ノ丞の不清潔な長い髪を揺らした。数分おきの列車の走行音と、抑揚なく断続的に奏でられるヴァイオリン、昨日壊された壁が魔改造を喰らう音、どこかの作曲家が弾くピアノ、そして清花に背を向けて黙々と原稿用紙へ向かう浅葱木綿のガリガリと筆を走らせる音が不協和に混じり合って本棚と本棚に挟まれた六畳間に反響している。壁が薄いのだった。</div>
<div>【然し気立たましい悲鳴を上げるにはまだ早い――腕は突如、ピアノをたらららと鳴らすような仕草で親指から順序にピクリと指を蠢かすと、電撃の奔ったようにビクンと大きく跳ね上がり、染みのついたコンクリイトの上へ五指でしっかと立つや否や、タランチュラのように指を這わせて猛スピードで迫ってきたためである】</div>
<div>「何これ」</div>
<div>　杏ノ丞が机に張り付いていた顔をバッと上げると、清花が手元の原稿を覗き込んでいた。</div>
<div>「何とは何だ。小説以外の何に見える」</div>
<div>「らくがき？」</div>
<div>「流石にぶん殴るぞ」</div>
<div>　へんに吊り上がった目で露骨に清花を睨みつけると、杏ノ丞は肩口に垂れかかった彼女の青いおさげ髪を払って膝を組み直す。</div>
<div>「誘拐したうえ暴行かー、未成年者略取誘拐で三月以上七年以下、暴行罪で二年以下&hellip;&hellip;」</div>
<div>　清花は本棚に視線を巡らせながら、ちゃぶ台の上に座って足をぶらぶらさせた。</div>
<div>「馬鹿言え。正当な保護だ。請求書も書くしな」</div>
<div>「貸してるお金で充分でしょ」</div>
<div>「それは未来の吾輩に対する投資。配当は後日。これは目先の取引」</div>
<div>「詭弁だ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　清花は退屈そうに、目の前へ積み上げられた本の背表紙を指で選び始めた。</div>
<div>　彼女が帰宅したときには既に、門の前で杏ノ丞が待ち伏せしていた。「お金ならお兄に直接どうぞ」と言えば、「暫くは貴様が金目だ」と四階まで引きずられる始末。結局彼はそれについては「部屋へは戻るな。そういう約束だ」としか言わなかった。</div>
<div>「着替え取ってきたい」</div>
<div>「サクラバか誰かに借りてこい」</div>
<div>　今度は振り向きもしなかった。原稿用紙越しに文机を引っ掻く万年筆の悩ましげな音は一歩進んで二歩下がりを繰り返している。清花はドアのほうを振り向いた。そもそも404号室は鍵がすっかりばかになっているので、出入りはし放題である。清花はふむ、と考える。非密室、必ずしも誰もが出入りできる空間でありながら、それは個室である。ならば非密室が&rdquo;何者も立ち入れる&rdquo;が故に謎となるなら&hellip;&hellip;そこまで考えて、お兄に相談してみよう、として思い至る。部屋へ戻ることは禁じられているのだった。当然、単なる門外漢の言うことだから、ふいにして帰っていったって何も問題はないのだろうけども、彼女は戻る気が起きなかった。それは心当たりのためだ。</div>
<div>「お兄はさ」</div>
<div>　彼女はそこで少し切って、続ける。</div>
<div>「何これって聞くと、これはこういうモチーフでこうしたよって教えてくれるんだよね」</div>
<div>「共著だからだろう。むしろそれを言わんことには始まらんではないか」</div>
<div>「杏ノ丞さんはそういうの、ないの」</div>
<div>「ハハア。作品は吾輩の手によって生み出されるものであり、吾輩もまた作品の手にあって存在するのだ」</div>
<div>「超わかんない」</div>
<div>「匙谷清花、吾輩はな」杏ノ丞は筆を置き、振り向いて腰を据え直した。「貴様と話していると、もっと腹を割って喋っても構わんという心持になるが、貴様はどうだ？」</div>
<div>　率直だった。彼はもしかしたら清花の声のことを恭弥から聞き知っているのかもしれない。</div>
<div>　彼女は口を開く。</div>
<div>「お兄、最近おかしかった」</div>
<div>「そうか」</div>
<div>　清花は毛羽だった床の上に足を畳み、神妙に座り込んだ。</div>
<div>「何かあったの？」</div>
<div><br />
<br />
<br />
「&hellip;&hellip;お兄、何かあったの？最近なんかおかしいよ」「僕はキミの兄じゃあないよ」「でも父親って歳でも」「昔みたいに恭弥さんって呼んでよ」「は？」「元はといえばキミのせいなんだよ。キミが僕を置いて逝ってしまうから」「お兄何言って」「遺された僕の気持ちを考えたことがあるかい？とても、とても悲しくて、淋しかったんだよ。キミの両親にもすごく怒られた。どうしてキミを唆したお前がのうのうと生きていてキミだけが死んだんだって。僕だってキミと一緒に逝くつもりだったのに」「お兄、ソレ何の話なの」</div>
<div><br />
<br />
<br />
「&hellip;&hellip;知りたいか？」</div>
<div>　杏ノ丞はちょっと眉間に皺を寄せたぐらいで、ざんばら髪の中に手を突っ込んでバリバリと頭を掻いた。</div>
<div>「割と」</div>
<div>「いくら出す？」</div>
<div>「あ、そこでお金の話するんだ！」</div>
<div>「あーデカい声を出すな！　鬱陶しい！」</div>
<div>「自分のほうが普段声デカいじゃん！　鬱陶しい！　髪切れ！」</div>
<div>「切ってほしいなら散髪代を寄越せ！！！」</div>
<div>「あっつかましいーーー」</div>
<div>「対価もなしに事を求めるでない！！！　世の中そう甘くないと知れ！！！」</div>
<div>「じゃあ、今思いついたトリック、売るっていうのは」</div>
<div>　清花が青い眼を据えて言うので、杏ノ丞はそれを鼻で笑った。</div>
<div>「吾輩は奴と違ってプライドがあるんでな。女子高生の指図で物を書いたりはせん」</div>
<div>「そういうのは相応の実力を持ってから言うべきじゃないですかー」</div>
<div>「吾輩の実力を理解できん貴様らの眼が曇っておるだけだ！！！　そういう下働きは奴にやらせておけ。実際喜んで働くだろうあの男は」</div>
<div>「うん」</div>
<div>「保護者から代金を取るのが筋だと思うか？」</div>
<div>「詐欺だと思う」</div>
<div>「では話すことはない」</div>
<div>「&hellip;&hellip;わかった。わかった。お兄から貰って」</div>
<div>　彼女は観念したように言った。杏ノ丞はふむ、と考えて右手で不格好に回していたペンでこめかみを突く。</div>
<div>「構わんのだな。まあいいか。</div>
<div>　そも恭弥は、吾輩の創設した誉れ高き文藝部の後輩である。顧問には『まさか部員が増えるとは』などと礼の欠いたことを言われたが、あの年は豊作でな。吾輩の街灯演説が功を奏したのか、他にも何人か部員が入った。そのうちの一人が恭弥であり、また件の少女だ。のち、吾輩は一足先に卒業したが暇だったがために割合あすこへ出入りしていな。当人に度々言われたものよ。どうすればいいでしょうといった具合のことをだ。吾輩は心の赴くままにせよと言った。其れが如何なるとして、尋ねるべきは人ではない。良し悪しも情懐も並べてひっくるめて、己が天秤に量るべきだとな。そんでもってマアどうやら後に恭弥と件のは付き合うことになったらしいが、そこはそれ、奴のことだ。何年前だかの今頃に、ついに本懐遂げんと心中を図ったわけよ。</div>
<div>　だが問題は、その頃、誰も奴の体質を知らなかったということだ。当人すらもな。人間がまっとうに生活しおって死ぬ機会などそうそうない。おおよそ心中事件が初めて奴の死んだ日であり、生き返った日だったらしい。そうでなければ&hellip;&hellip;いや、そうだとしても&hellip;&hellip;ともかく奴は生き返り、件のは死んだ。それが皐月の今頃よ」</div>
<div>　強く風が吹き込み、腕組みして黙々と語る杏ノ丞と、それをジッとして聞いていた清花の髪をなぞった。窓がギイギイと軋む。</div>
<div>「大変だったぞ。喪服のアテがなくてな。腰野に借りに行った。一言の文句も言われんどころか『サイズ合うかな』だのとのたまうもんだから驚いた。てっきり一緒に死んだと思った恭弥がしゃあしゃあと葬式に出ておったのもまた驚いた。あの顔はもう見られんだろう。年々ましになってきとるからな」</div>
<div>　そういうと、杏ノ丞は立ち上がり、窓を閉めた。外界の騒音が締め出され、壁に響く軋みや奇妙な音楽だけが残った。杏ノ丞は机に向かって座り直し、また万年筆を取った。そして一度頬杖をついてから、原稿用紙に視線を落とし、それから音沙汰のない清花のほうを振り向いた。清花はきょとん、という音のしそうな顔をして、ただ座っている。</div>
<div>「どうした。話は終わりだ。長さとしては一枚半程度だったから大まけにまけて五十圓で勘弁しておいてやる」</div>
<div>　彼はそう言って再び机に向かった。しばらく背後には人の気配があったが、陽がいくらか沈んだぐらいで、ドアが開き、閉まる音を残して消えた。どこへ消えたかは知るよしもなかったが、部屋には戻らなかったのだろう。なぜなら彼女は翌日も、五体満足で平然と学校から帰ってきたからである。四階四○四号室に。</div>
<div><br />
<br />
<br />
　&hellip;&hellip;男は一心不乱に机に向かっている。笑い声が聞こえようとも、喚き声が聞こえようとも、爆発音が響こうとも、静寂のうちに電車が遠く線路を叩くのを聞こうとも、微動だにせず、ただ黙々と筆を走らせている。それは手紙である。大量の便箋が散らかっている。言葉の溢れるままに、書き損じはそのまま二重線で消して、喰らいつくがごとく、ただひたむきに、どこか優しい目をして、男は手紙を書いている。背中に満ちた真摯さが筆を伝って文面に垂れ落ち、それはあっという間に罫線を埋めた。彼は一昼夜、ただ黙々と手紙を書いた。書き続けていた。<br />
<br />
<br />
　</div>]]>
    </description>
    <category>なんとかかんとか</category>
    <link>http://mojimoji333.3rin.net/Entry/33/</link>
    <pubDate>Sun, 18 May 2014 11:58:45 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>帝都は快晴</title>
    <description>
    <![CDATA[<div><br />
<br />
</div>
<div>『サア選び給え。一には雨露に膨れ軋んだ木扉。二には赤錆に封ずる鉄扉。三には叩き壊された硝子窓。（中略）</div>
<div>　然し我輩は第四に、この腐りかけた壁を打ち壊してゆくとしよう』</div>
<div>　――片村椰次郎『劇場』一幕より</div>
<div><br />
<br />
<br />
</div>
<div>　花の帝都西京よ！　西端の離れ小島に咲く一輪の大花！　吹き込む欧州気風の温気に萌え出ずる西亜文化の芽はといえば、かの神田町にもポッポと吹いて見られた。詰まり行き交うハットを乗せた洋装の紳士に然り、彼の見上げる鉄筋仕込みのビルチング然り、其の看板に微笑むシャンソン歌謡の流行娘然り、自転車を駆る文士青年の抱えた洋かぶれの思想書然り。</div>
<div>　皐月晴れは午後四時の煌々とした日差しの下に、片村次郎青年は書一式を抱え、一心不乱とペダルを漕ぎながら、神田川を越え、靖国通りを東に向かっていた。通りがかりにいつもの書店の店番猫が顔を擡げ、袴の裾を靡かせながら次郎の駆け去っていくのを送ってまた眠る。一等詰襟の学生服の集団を横切って角を滑るように曲がり、通りの一本先は静かなシャッター街である。先の恐慌の煽りを受けて新興老舗に区別なくばたばたと潰れていった書店の名残はついぞ古紙の香りばかり也、とはいえ次郎は自転車をダンとシャッターの前に置き捨てると、うち一つ、古扉の奥へ仄かに火を灯した一軒を覗いた。</div>
<div>「いらっしゃい」</div>
<div>　カウベルの音を潜れば、そこは廃屋じみた佇まいに古本を詰んだガレッジである。店主は奥のカウンタへ背中を丸めて座っている。</div>
<div>「翻訳本です」次郎ははにかみながら、薄暗い店の――店というよりは本の担ぎ込まれた部屋といった具合だが――奥へと歩み寄り、肌色の表紙の二冊をドンと目前に置いた。</div>
<div>　店主はそれを審美して曰く、「連邦のじゃあないか。よく持って歩いたもんだ」そして丸眼鏡の奥でにやりと笑う。「一丁前にセドリ屋気取りかい」</div>
<div>　それには次郎青年もにっと笑って返すより他ないのである。</div>
<div>　彼は既に幾店もの古書店を股にかけ、無類に本を取っては専門書店へ直しすがらに代金をかすめる確かに一丁前であった。それもこれも読書狂いの高じてであり、事の始まりは叔父の別荘で出会った巨大な書架であったが、その広大な背表紙をひとすくい手に受けて以来、実際彼は留まるところを知らぬ本の虫と化した。ふとしたことでついついこの物言わぬ文字どもを求めてしまうのは、あるいは飢えにも等しく、遠くは脳髄の荒野の遥か遠くより何かを探しているような心持ですらあった。脳座の下のほうへいる虫のようなものが、なにものかで埋めでもしなければ今にも彼を食い潰しかねんといったような具合である。それが実際何であったのか、彼が知った、否、思い出したのは近頃のことであるのだが。</div>
<div>「おい」</div>
<div>　そこへガランガランと再び戸が開き、入ってきたのは学生服に身を包んだ大柄の青年であった。次郎は驚いた。先ずはこの店を尋ねるのが自分以外にあったものかというので、次にはその顔が見知ったものであったためである。</div>
<div>「やあ、佐野山君」</div>
<div>　山のように肩の張った猪首の彼は、次郎の古い馴染みであった。同じ下町に生まれ、昔にはよくいじめられもしたような感じがするが、今はすっかり単に学徒然として、目の前の男はしっかと立って懐かしげに笑っている。</div>
<div>「おい、おい、次郎かあ。やっぱりなあ。自転車で通りがかったのを見たもんで、つい追いかけてしまった」</div>
<div>「なんだい、態々すまないなあ」</div>
<div>「気にするな。随分前から会っていなかったから、少し気になっていたんだよ」</div>
<div>　佐野山はさる弁護士の息子であったが、怪事件のために悪評の立った宅地から逃れ、世田谷に移ってしまったのである。</div>
<div>「どうして君が神保町に？」</div>
<div>「それがな&hellip;&hellip;」彼は突然、ごつい顔を真剣そうに固めた。「歩きながら話せないかね？」</div>
<div>　次郎は店主を振り向く。</div>
<div>「今、ツテに需要があるもんだから、少し融通しよう。次郎君」店主は封筒をそっと差し出した。「またよろしく」</div>
<div>「はい、ありがとうございます」</div>
<div>「それとねえ、例の同人誌の、君の話、とても良かったよ。もう書かないのかい？」</div>
<div>「ああ、あれは&hellip;&hellip;」次郎は人の誘いで手習いに書いた掌編のことを思い出した。日記をつける癖のある次郎にとって文筆は慣れ親しんだものだが、フィクションに手を出したのはあれが初めてであった。講評は芳しくなく、彼は辟易したものである。「もう遠慮しますよ」</div>
<div>「そうか。勿体ない」</div>
<div>　ともかく二人の学生は店を出た。そうして大通りに戻りすがら、昔話にチョットした花を咲かせた。それとはいえ次郎は佐野山に（世話焼きであったことは認めようが）それほどいい思い出がないので、早々に切り上げになってしまい、やがて九段下に差しかかるころになると、話は核心に切り込もうというところだった。</div>
<div>「今のところ、例えば磐倉に勤める会社員の手取りは、月に六千圓を超える」</div>
<div>「ウン」</div>
<div>「ところが地方を見てみれば、千圓のために百姓農家が娘を売り飛ばしているわけだ」</div>
<div>　これは実際社会現象で、次郎の耳にもそういう都市と地方の格差が生んだ痛々しい話がある程度入っていた。</div>
<div>「これはどうすればいいと思う、次郎」</div>
<div>「どうすれば、か」</div>
<div>　次郎はふうと上を見た。空青く、罫線じみて電気線が度々とある。上の空に書きつけて、要するに佐野山の真意は如何にということだ。</div>
<div>「格差を無くすために、というわけだね」</div>
<div>「そうだ。その為に&hellip;&hellip;俺は今のままではいけないと思う」</div>
<div>「と言うと」</div>
<div>「荒川さ」</div>
<div>　佐野山が言って向こうを見、次郎がそれに合わせて大辻を見通すと、外堀通りの区役所前には黒山の人だかりが有った。</div>
<div>　沿道をわんやと車道に零れんばかりの人が行進しているのだ。手に手に看板を、標語を掲げ、先導の掛け声にオオーッと地響きのような賛同を上げる大衆は何百人連なっているだろうか！　黒い頭の揺れる波よ！　最中燦然とそよぐ旭日旗の威風堂々よ！　先頭中心には軍服の女があった。制帽に溢れんばかりの黒髪を颯爽と靡かせ、肩で風を切り行くのだ。さらに声を張り上げて曰く、「政党腐敗の留まる処を知らず！　以て是を天神王御君の御前に晒し給え！」怒号！「天照皇君王道の名の下！　君側の奸を今ぞや退け！　大政を奉還せんと！」「維新！」「維新を！」嗚呼無数にうねる人波の！　ひとつ生命めいて咆哮するのを！　特高のサイレンが遠くから追ってくるのが聞こえる。</div>
<div>「あれは」</div>
<div>「デモ隊だ。荒川から下ってきて、神居を回って戻っていく」</div>
<div>「まさか君は、あれに参加しているのか」</div>
<div>　佐野山は頷いた。</div>
<div>「改革しなければ。国民が窮しているってのに政治屋はみんな連邦とベッタリで泥沼のようじゃないか。今のままじゃあとても列強には勝てない。おれは天照を焦土にはしたくない」</div>
<div>　次郎はハッとなった。焦土&hellip;&hellip;。</div>
<div>　それがハッキリと脳裏に思い描かれたのは何時ごろだろうか？　喉奥へ張り付いたようになって、もしかしたら生を受けた時分からずっとそこにあったのかもしれないが、彼はとにかくそれに出遭った。</div>
<div>　云わば面影。云わば憧憬。俗には"前世"。</div>
<div>　戦友を預けた艦隊の次々と傾いてゆくのを見届けた己の感情は思い起こせない。只思うのは帝都"東京"の&hellip;&hellip;愛した神田の町&hellip;&hellip;。</div>
<div>「お前はどうする？」</div>
<div>　ふと見ると、佐野山は言い残して、デモ隊へと合流しようとするところだった。どうする？　どうするだって？　嗚呼。</div>
<div>　次郎はぼうっと目の前を流れていく溢れんばかりの行軍を眺めていた。如何するだなんて。思えば指図のままに暮らしてきた。階段を上るように年を重ね、彼が愁うのは精神の虫のみであり、他者に対してどうあれと思ったことはなかった。なんと&hellip;&hellip;あの人を物のように扱った佐野山よりも、一国民として劣りやしないか。</div>
<div>　などと思うのも束の間。</div>
<div>　彼はその場に釘づけになった。雑踏と怒号を響かせ流れていく示威行進の流れ、今や特高にぞくぞくと囲まれつつある彼らの中に、一際輝く日の丸旗、その持ち手。背筋をぴんと伸ばし、腹前に礎を置いて旗を握る彼女は。</div>
<div>「しいな」</div>
<div>　欠席したんじゃなかったのか。そうか&hellip;&hellip;。</div>
<div><br />
<br />
</div>
<div>　それが次郎青年と荒川デモ隊の、初めての邂逅であった。眩しく紅白の旭日旗のはためき轟く、帝都の空は快晴だった。<br />
<br />
<br />
<br />
　</div>]]>
    </description>
    <category>昭和西京荒川奇譚</category>
    <link>http://mojimoji333.3rin.net/Entry/32/</link>
    <pubDate>Mon, 12 May 2014 03:20:22 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>杏ノ丞、死す</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
<br />
　オドロシ出版は景気のあぶくに乱立した吹けば飛ぶような有象無象の出版社のうちの一つであり、安い紙（それはもう、殆どのページが藁半紙だったりする）で多くの場合検閲に塗り潰されるスレスレの情報を、とにかく数打ちゃ通るといった具合にいくらでも並べ立て、粗雑に大量印刷するまさにカストリ屋そのものといった具合の店構えであった。記事が揃えば不定期に何度でも印刷されマンボウの卵のようにメディアの大洋に流れ出していく「奇譚奇猟」は、出版業界飽和のこのご時世に置いてはその暦の長さだけで売り上げを維持しているまるでそこにそれ当然とあるからには気乗りでなくとも手のつく「連れ添う妻のまずい味噌汁」じみた冊子である。編集長、兼記者、兼アドバイサー、兼営業、兼電話番、兼スカウト、兼社長の恰幅のいいはげと、編集兼記者兼雑用係の社員二名、そして下町に蠢く無数のヤブ記者ども。これらによって自転車操業されているわけだった。<br />
　さて、かくいうオドロシ出版の、ほとんど鉄骨剥き出しのアパートメントみたいなテナント、錆びたホーロー看板に名の記されているのさえなければ人が住んでいるのかさえ怪しいその建屋のぎしぎし軋むドアを開け、一人場に合わぬ紳士が姿を現した。<br />
「何や、ここの記者はやたら知っとったなぁ」<br />
　老舗っちゅうだけあるやろか、と一人ごちる。長い髪を後ろに束ね、こつこつと高い踵を鳴らして歩く姿は実際劇場にでも赴きそうな風体だが、彼女が、否、彼が今踏んでいるのは赤絨毯ではなく錆びた鉄板を打ってあちこちに補強のなされた外廊下である。<br />
　彼こそは天照文藝界の重鎮匙谷小唄、またの名を"荒神"小唄である。彼の目的は、情報を押さえることだった。それは昨今巷を賑わせてやまない荒神雷蔵内閣総理大臣に関する"根も歯もない噂"の伝播を防ぐということでもあり、また奪い取るということでもある。既に数社、似たような廃屋を潰してきたが、ここはなんと写真――荒神雷蔵総理が車に押し込められる瞬間を激写した、質の悪いコピーの出回り続けるそれの「ネガ」の一部を押さえていたのだ。手書きのメモをちらつかせながら、焦点の合わない目で綴薬を求める汚物じみた禿爺から引き摺り出した。彼はそれを覗き込む。間違いない。あのうちの一枚だ。<br />
「どうやってこんなん&hellip;&hellip;」<br />
「おい」<br />
　突如聞こえた声に、小唄はゆるりと振り向く。<br />
「何を突っ立っておる。邪魔だ。道を開けろ」<br />
　立っていたのは男だった。ざんばらの長髪から着物から背筋から根性から何まで乱れきった具合のだらしない姿をしているが、態度は不相応に大きい。<br />
「お兄ィさん、どなた？　ここの出版の人？」<br />
「そうと言えばそうなる。言わねばそうではない。中に入ってみるまでそれは吾輩にも分からんのだ」<br />
　言うと、彼を押しのけて中へ入ろうとする。<br />
「ちょい待ち」<br />
　小唄は男の前に立ちはだかった。今中に入って貰うわけにはいかない。そこには死屍累々の編集たちが泥沼のような悦楽を流し込まれて痙攣しているのだ。<br />
「ブン屋さんやね。タレコミにでも来たん」<br />
「ブン屋？　ふん&hellip;&hellip;吾輩がそんなもので収まるような器に見えるか！」<br />
　突然拡声器のボリュームをいじくり損ねたかのように男の声がクレッシェンドしたのでのらりくらりと構えた小唄もさすがに少し驚いた。というか引いた。<br />
「吾輩こそは！！　不遇の天才作家、杏ノ丞（あんのじょうきょうのすけ）である！！！　金はまだない！！！　今まさに貰い受けに来た！！！　今日までで合計八百四十圓&hellip;&hellip;おそらく今日の交渉で吾輩は総計千圓にもなる金を手にするだろう！！！　くッくッくッ&hellip;&hellip;阿ァーーーッはっはっはっはっは！！！！」<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　少しどころではなかった。ドン引きした。<br />
　だがそれどころではない。金を貰い受ける&hellip;&hellip;ということは語気に関わらずおそらくなんらかのネタを持っているに違いない。それもこんなドン底の出版社から千圓もの金を引き摺り出すような、金の鵞鳥&hellip;&hellip;旬のネタを。<br />
「つまるところ、ネタ売りに来はったんやろ」<br />
「まあ端的にはそうだ」あっさり認めた。<br />
「あんな&hellip;&hellip;ここだけの話、僕ァ同業やねん」小唄はにんまりした。「当然もっと大きいとこに所属しとるんやけどね、よかったらそのネタ&hellip;&hellip;もっと高う買うで」<br />
「ほう？」杏ノ丞は眉を吊り上げた。なるほど食いついたのだ。「いくらで」<br />
「三倍」<br />
「&hellip;&hellip;いいだろう、貴様の所属はどこだ？」<br />
　完璧な流れだった。あとは自然の流れで、メモの上に適当な文字を書いて出すだけだ。小唄は今書くわ、と言ってポケットからメモとペンを取り出し、その上に「そのネタ見せてみい」と書いた。<br />
　顔を上げると杏ノ丞はいなかった。<br />
「！？」<br />
「おいクソ親父！　続きを持って&hellip;&hellip;」彼は既に扉を開き、ナメクジのような動きでその中に滑り込んでいた。そしておそらくその惨状を目にした。<br />
「なァアアアアアアンじゃこらアアアアアアアアア！！！！！！！」<br />
　小唄は舌打ちして扉に飛びついた。だが開かなかった。杏ノ丞が咄嗟に後ろ手に閉めたのだ。<br />
「貴様か！！？？　貴様がやったんだな！！！？？」<br />
「ちゃうわ！！！　僕が来たときにはもう」<br />
「こんなモン見た一般人が暢気に盗んだネガなんか眺めていられるか！！！！！　盗人でも入ったんだろうと思ったがまさかこれは完全にアウトだぞ！！！！！」<br />
「チッ、勘のええ奴は早死にすんで」<br />
「んな小奇麗な格好でヒール履いてネタ垂らしにくる記者がいるかバーーーーカ！！！！！　少しはましな嘘を吐け！！！！！」<br />
　小唄はドア越しにノブの引き合いをしながら逡巡した。このやたら騒がしい目撃者をどうするべきか？　応援を呼んで処理するか、このまま押し切るなり、揺さぶり落とすなりするか、もしくは&hellip;&hellip;それとも&hellip;&hellip;<br />
　と、考えを巡らせていた刹那。<br />
　ドアが逆に押し開けられた。ノブを引いていた小唄は当然、勢いのまま後ろに倒れかかる。バランスが取れない。たたらを踏んで仰け反る。鉄板の足場がガンと軋む。半分宙に浮いた身体に飛びつくように男は突っ込んでくると、そのまま小唄の身体をヒョイと持ち上げ、肩に担ぎあげた。<br />
「！！！？」<br />
「阿ーーッはははははははははは！！！！」男は高笑いを轟かせた。「現行犯だ！　現行犯ったら現行犯！　現行犯なら一般人にも逮捕できる！　ふはははははは逮捕だ！！！！　ふはははははははははは！！！」<br />
「な、な、何&hellip;&hellip;！！？」<br />
　何どころではなかった。もはや彼は小唄をしっかと肩上に抱えたまま歩き出していた。<br />
「感っ謝っ状～♪　謝っ礼っ金～♪」<br />
「はァ、離さんかい！！！　触るな！！！」<br />
　俵めいて担ぎ上げられた小唄はほとんど天地逆のまま、能天気に鼻歌なんかしやがる野郎の腹に向かって思いっきり膝を入れ、染めの落ち切った浅葱木綿の背中をドンドンと叩いたがびくともしない。<br />
「無駄だ！！！！！　吾輩はほぼ週一のペースで門前に倒れ伏した成人男子二名を二階まで担ぎ上げる作業に勤しんでおるのだぞ！！！！！　貴様のような細っこいのがいくら暴れようが無駄ッ！！！！！！」<br />
　身の丈は下駄やヒールを見積もっても小唄のほうがあるはずなのだが、杏ノ丞はゾッとするほど丈夫だった。<br />
「くうっ&hellip;&hellip;離せっ！！！　離せ&hellip;&hellip;」<br />
　小唄は一歩のたびぐらんぐらんと背中に揺られながら唇を噛み締めた。身体を捻って膝でも入れてやろうとしてもドンと肩で担ぎ直され腰を打ちつけるだけで二進も三進もいかない。それでなくても音のなるほど殴っているというのにどこ吹く風で男は路地を抜けていくのだ。小唄にとってはこれ以上の屈辱はなかった。住宅街は閑静だ。悲鳴を上げてやるか？　だがそれは矜持が許さなかった。喚く自分の口から出てくる声さえ彼には鬱陶しかった。それは如何しても女の声をしているからだ。ゆえに彼は黙々と抵抗した。<br />
「あの出版社はな」<br />
　男は小唄が口を開かなくなると、不意に切り出した。<br />
「不条理と不健全、不義理に不可思議を信奉した或る男の情熱の、ひとつの成れの果てだ。定めるべくに不の字の欠かせぬような概念のために、男の闘いはマンホールの穴ぐらの下から始まった。検閲を潜っては書き散らし、ガリ板で手ずから刷ったビラを撒いたのが奇譚奇猟の始まりよ。あの糞狸が界隈でやたらと持ち上げられるのもそれ故だ。まあ貴様のような上流の人間には縁遠いだろうが」<br />
「はぁん」小唄は逆さ吊るしのせいで血が上って霞んでいく頭を必死に巡らせながら言った。「せやから仇を討つ？　&hellip;&hellip;見してもろたけど、あの冊子からは思想なんかこれっぽっちも感じへん。雑な噂煮込んだだけの闇鍋やった。あんなもんのために僕を捕まえる？　僕が何したか見たんやろ。蟷螂の斧って言葉知っとる？　自分がどこに喧嘩売ろうとしてるか、分かっとるん？」<br />
「分からん！！！！！」即答だった。「そして仇を討ってやるほど吾輩は連中に肩入れしていなァい！！！！　吾輩の欲しいものはな、それは金だ！！！！！！　報奨金！！！！！！　貴様を交番に突き出してタンマリ謝礼をせしめる。無駄打ちになったネタの分もな！！！　阿ァーーッはっはっはっはっは！！！！」<br />
「じゃあさっきのは何だったんや&hellip;&hellip;」<br />
「ただの独白だ。コンセプトは"有意義かつ無意味"」<br />
「もう僕ァ君とは二度と口利かん」<br />
　だがそういうわけにはいかなかった。チャンスが巡ってきたからだ。<br />
「今の高笑いどっちからだ！」<br />
「あっち！」<br />
「ああおった！　ってあああああ！　アンノジョーが人抱えとる！」<br />
「わーほんとだー」シャッター音。<br />
「営利誘拐やないですか！　いくら金のためでもそれはさすがに逮捕や」<br />
「杏ノ丞さん&hellip;&hellip;ついに&hellip;&hellip;」<br />
「激写」<br />
「おいちょっと待て」<br />
　駆けつけたのはカメラを抱えたアトリ、そしてでかでかと『我食う故に金なし』と書かれたTシャツにスウェットを羽織った墨、そして息を切らして杏ノ丞に生温かい視線を送る烏だった。<br />
「そもそも何故お前らがここに」<br />
「スズさんが『ぴっぴー（杏ノ丞がまたなにか厄介事を企んでるっぽい）』ちゅうてたんで、金が絡んでるってアタリ付けてあわよくばと思って決死の覚悟で外に出てきたんですわ、ひー溶ける死ぬアンノジョーに何か奢らせんで帰れへんわ」<br />
「そのアクティブさをネタに出せ、ネタに」<br />
「私はついでに何か撮ろうと思って」<br />
「墨さんと三々さんだけだと心配だったのでついてきました」<br />
「うむ、わかったわかった。ではこいつを交番に引き渡してから謝礼金で何か食おうではないか」<br />
「え？　アンノジョー自首するん？」<br />
「違うわ！！！　犯罪者は吾輩ではない、こいつのほうなのだ。盗人にしてテロリスト！　言論の自由への挑戦！　まあ現行犯で逮捕だ」<br />
　言論の自由&hellip;&hellip;背中ごしに杏ノ丞の言葉を聞きながら、小唄は自分と検閲課のやりあいを思い出してせせら笑った。<br />
「杏ノ丞さんが奢るなんて明日は槍が降りそうですね」<br />
「奢るとは言っとらん。貴様らは自分の金で食え」<br />
「あーいつも通りだった」<br />
　肩に人を担いだまま世間話をする連中の異様な光景は、白昼の住宅街の道路である。片側一車線、歩道の数メートルごとに街路樹が風に揺れている。車通りはなく、人も今はいない。この時間帯では国道の裏道にという車もさほどないのだろう。それでも決して元よりまったく車の通らないような道ではないので、誰も気が付かなかった。今まさに角を曲がってきたトラックが異様にふらついていることに、それが四人と肩の上の一人から十数メートルと離れない駐車禁止の交通表示を弾き飛ばすまでは。<br />
「あっ」<br />
　と、誰かが言ったときには、既にそのトラックは歩道に乗り上げ、街路樹に車体をぶつけながらこちらへ向かって突っ込んでくるところだった。<br />
「危なっ――」<br />
　トラックの質量的な鼻面に竦んだアトリと鳥の手を引いて、墨が真っ先に動いた。進行方向を逃れて車道に出る。杏ノ丞はピョンと飛ぶと下駄を蹴り捨てて裸足で中央線に着地した。トラックはガガガガガガと車体をコンクリート塀に削りながら暫く歩道を走り、次の街路樹を回って車道へ戻った。<br />
「な&hellip;&hellip;」<br />
　道に引き倒された鳥はバクバク打つ胸を押さえて今まさに交差点で無茶苦茶なＵターンして戻ってこようとするトラックのタイヤ痕を見ながら茫然とした。<br />
「何やアイツ&hellip;&hellip;」<br />
「ふむ、おい肩の、お前の仲間か？」<br />
　その時、杏ノ丞が飛んだときに上体の浮いた小唄は思い出していた。ベストのポケットにペンが入っていたことを。手に取る。そして、<br />
「知らん&hellip;&hellip;なあッ！」<br />
　それを思いッきり、杏ノ丞の背中に突き刺した。<br />
「痛だぁッ！！！？？」<br />
　肩甲骨下にふかぶかとペンを突き立てられた杏ノ丞の怯んだすきに小唄は力いっぱい身体を捻ってその拘束から脱し、弾みで地面に肩からしたたか打ち付けられた。杏ノ丞は激痛に蹲り、その隙に小唄ははっと後ろを振り向く。状況はわからないが、襲撃されている。しかも自分ごとだ。特高側がこんな杜撰なことをするとは思えないが、まだ何ともいえない。誘拐そのものも杜撰と言えば十分に杜撰なものだったではないか。彼は逡巡した。どうする？　立ち去るか？　だが少なくともこの男にはばっちり顔を見られているし、トラックの狙いが自分だったら状況は最悪だ。<br />
　とかなんとかしている間に再びトラックが迫る。<br />
「三々さん！！！」<br />
　車道上にばらけた五人のうち、烏と三々をかすめるようにトラックは大きくカーブしながら突っ込んできた。烏は咄嗟に三々を突き飛ばし、自分も地面を転がるようにしてトラックを避けた。トラックはガンと運転席の側面で電柱を叩き揺らし、そのままふらふらと速度を緩めもせず走り去り、角を曲がって消えた。<br />
　そして静寂と、揺れる電線、タイヤ痕だけが残される。<br />
「&hellip;&hellip;兄ちゃん、やっぱり、そのネガ捨てたほうがええよ」<br />
　小唄は身体が固くてなかなかペンに手が届かず海老反りしている杏ノ丞に歩み寄って言った。<br />
「ふぬぬぬぬぬぬ取れん&hellip;&hellip;捨てたほうがいいだと？　何故だ？」<br />
「何故って&hellip;&hellip;」もう小唄は呆れてものも言えないという顔をしていた。「今の見はったやろ。あれ、たぶん狙いはそのネガや。もしくはそれを知っとる全員」<br />
「そうかな」彼は背中にペンを突き立てたまま立ち上がり、膝を払う。「そうだろうか&hellip;&hellip;」<br />
「せやから、渡して」<br />
「それでも渡さん、と言ったらどうする？」<br />
　小唄はため息をついて、数歩戻り、側溝の傍で「カメラぶつけちゃった&hellip;&hellip;」と意気消沈するアトリの傍に寄って、そっとその背中に沿うと、後ろから抱きしめる。<br />
「このお嬢さんが&hellip;&hellip;出版社の連中みたいになるんが、見たい？」<br />
　アトリは頭の上に疑問符を浮かべたが、まだ手はカメラを撫でまわしていた。<br />
「えっ&hellip;&hellip;」<br />
「おっと。ギャラリーさんも動かんでね。この子がどうなってもええなら、ええけど」<br />
　小唄は立ち尽くす墨と烏に向かってにっこりとほほ笑んだ。<br />
「さ、どうする？　僕の薬はよォ利くで。見たんなら、分かるやろ」<br />
　杏ノ丞は不精髭の浮いた顎を撫で回しながら、懐に手を突っ込んで、何かを考えているふうなそぶりをした。<br />
「&hellip;&hellip;正直ちょっと見たい！！」<br />
「す、筋金入りの下衆&hellip;&hellip;」小唄は明後日のほうを向いてげろげろと顔を青くした。<br />
「だが貴様の思い通りに事の進むのは吾輩の性に合わん。それにしてもさっきのトラックは&hellip;&hellip;」<br />
「ええからはよ渡し！　ネガ！」<br />
　そこでようやく、不穏な音が全員の鼓膜の底にも届いた。ガリガリガリガリ。何かを擦りながら、大きなものが無理やり迫ってくる――<br />
「ああ糞！！！！　馬鹿が！！！」<br />
　杏ノ丞が仁王立ちから突然にして足を捲り、韋駄天のごとく突っ込んできたので、最初の不意打ちを思い出した小唄は怯んだ。「馬鹿はどっちや！？　こっちは――」だが彼は止まらず、そのまま三々と小唄の胸倉を両手で掴み上げると「あれの狙いは三々だ！！！」二人を力の限り投げ飛ばし、不格好に絡み合って二名が街路樹の足元にもつれ落ちるのと、背後の狭い路地からさっきのトラックが再び突っ込んでくるのが同時。<br />
　ブレーキ音もない。サイドミラーを破壊し、道幅ぎりぎりの車体を無理やり通して飛び出す。跳ねる。そして黒い影法師を巻き込んで、トラックは真っ直ぐ突き進み、反対側のビルを取り囲む石塀に轟音を撒き立てて激突した。地震めいて地面が揺れた。左右のブロック塀が一瞬遅れてばらばらばらばらと崩れ落ちる。杏ノ丞の姿はない。<br />
「あ&hellip;&hellip;」<br />
　トラックは激突の勢いでビルの壁に沈み、後輪が若干浮いてからからと空回りしていた。濛々と巻き上がる黒い土煙。その向こうへ徐々に見えてくる、土壁に飛び散った鮮血。<br />
「あんのじょー&hellip;&hellip;？」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　お願い、死なないで杏ノ丞！　あなたが死んだら、滞納している家賃はどうなっちゃうの？　金の鵞鳥はまだ残ってる。ここを乗り切れば、謝礼金が手に入るんだから！<br />
　次回、『杏ノ丞死す』。デュエルスタンバイ！<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
（続きます）<br />
<br />
<br />
<br />
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　<br />
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]]>
    </description>
    <category>なんとかかんとか</category>
    <link>http://mojimoji333.3rin.net/Entry/30/</link>
    <pubDate>Wed, 30 Apr 2014 18:04:47 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>その鵞鳥を金に塗れ</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
<br />
　四月も末の何概館、熱気も籠りがちになった階段室では窓が開き、"動物"と称して作られたＳＡＮ値チェックを要するような石膏像がぐらぐらとそよ風に揺れていた。<br />
　廊下をとつとつと歩いてくるのは四一三号室の絵描き見習い、逆見時雨である。見習いとはいえまっとうな絵の仕事など雀の涙ほどもないぐらいであり、もっぱら遊郭を回って春画を描き下す日々だった。この廊下を行き来する多くの連中はその芽をいまだ息吹かず、もしくは日の目を見ないがために花を咲かせず茫としている。籠った空気に満ちる埃のような人それのような気配もまた彼らから滲み出たものの哀愁である。コルクボードで破れかけたポスター、求人広告、節水喚起らも、要領を得ない歴代住民の落書きもそうだ。妙なロウアングルで撮影された颯爽と行く鉄道も、ほの暗い路地裏を低コントラストで写し取った大判も、「殺陣教えます三〇二号室」の張り紙も、手当たり次第といった具合で刺繍のなされたカーテンもそうだ。<br />
　さて。<br />
　今、安絣を染料で斑にした彼が分厚い本を手に手に、背を丸めて向かったのは中廊下は西、四〇四号室であった。<br />
「丞さん」彼はこの部屋のドアを律儀にノックする珍しい人間だった。「開けますよ」<br />
　彼がドアを開けると、六畳一間は既に埋まっていた。まず時間切れのクイズ番組に向かってせり出すようなどでかい本棚が両側の壁にそれぞれ鎮座し、中には高さも横幅もまばらの本がときに二段ときに横に寝かせてとにかく詰め込まれていて、ハンガーが無造作にひっかかっている。天井と本棚の間にも何が入っているのかわからない埃を被ったダンボールがしおらしくしており、壁紙の色は正面の窓の周りでしか確認できないといった具合である。窓は開け放たれ、その手前にはガムテープでぐるぐる巻きにされた古びた文机、の上に部屋主の男がざんばらの長髪を振り乱して座っている。その左脇には朱色のボディをした小さなブラウン管テレビがあり、画面をやや揺らし気味にしながら連続テレビ小説を垂れ流す。そして部屋の中央にはといえば、普段は彼の万年床が着物なんぞといっしょくたにぐちゃぐちゃしているのだが、それを無理やり脇に寄せ、どこから持ってきたのかちゃぶ台を置いてそれを数名が囲んでいるといった状況だった。<br />
「お、時雨の兄さんやないですか」<br />
「時雨さん！　ちっす！」<br />
「ﾋﾟｰｯﾋﾟﾋﾟｯ」<br />
「逆見さんだー」<br />
「何だ逆見か。何用だ？」<br />
　そこにいたのはやる気のないスウェット姿でネタ帳とペンをぷらぷらさせるニート担当と、本の上に腰掛けて爽やかに微笑む高校生、やはりどことなくやる気の見えない私服で頬杖をつき笛を吹くジト目に、カメラをちゃぶ台の上にでんと乗せた少女だった。<br />
「何で皆&hellip;&hellip;わざわざ丞さんの部屋に？」<br />
「うむ。話せば長いがな。今朝がた帰宅して現場からかっぱらってきた握り飯をいただこうとしたらだな、何を嗅ぎ当てたのか墨に滑り込まれてな。壮絶な争奪戦の末、実に三分の一にもなる米を奪われ」「具が喰えんかったんだけが心残りで」「じゃかあしい！！！　不当に奪われてだな、ケンケンしとったら帰るのがめんどくさいとか言いやがり居座られた。するといつのまにか色摩弟が本を盗み読みに来やがり、現像待ちの三々が来やがり、非番の笛が暇がって来やがり、こうだ」<br />
　よくもまあこのむさくるしい穴ぐらのような六畳一間に五人もの人間が集まったものである。しかしまあ平時並みだ。もう少し暑くなれば空調を買う余裕のあるものの部屋が溜まり場になり、寒くなれば炬燵のある部屋が聖地となる。彼らは遊牧民なのだ。<br />
「ところで貴様は何の用だ？　六人も座れる場所はないぞ？」<br />
「あ、ここ本積めば座れますよ」烏は自分の据わっていた積み本の山を少し寄せ、別の崩れていた本を適当に積んだ。<br />
「場所を作るなァーーッ！！！」<br />
「構わないよ。これを返しに来ただけだから」<br />
　時雨が傾けた分厚い本に浪漫文字で書かれた題は『新四十八手』。それを直視した烏は湯に突っ込んだ温度計じみてぐっと赤面した。表紙で〼区切りに書かれているイラストではどう見ても男女が多種多彩な体位で熱烈に組み合っているものである。<br />
「あ？　ああ、ご、ごめんね、烏君はまだ高校生か」<br />
「適当に棚に乗せておけ」<br />
「有難う。参考になった」<br />
　二人のやりとりは至って平静だった。烏は「こいつらの世界はわからない」という感じの顔をした。<br />
『お昼のニュースです』<br />
　そこへテレビがポーンと鳴る。<br />
「おっ八重さん」<br />
『西大病院にて会見を予定していた荒神総理の刺傷事件について、病院側からの声明が――』<br />
「この事件ずっとやっとるなー飽きたわもー」<br />
「ﾋﾟｰｰｰｰｯﾋﾟ」<br />
「俺天気予報だけ見て戻ってもいいっすか？　明日雨だったら弁当いるんで」<br />
「えっ総理って刺されてたの？」<br />
「三々、貴様テレビを見んのか？　昨日からずっとこの調子だぞ」<br />
「だって総理って誘拐されちゃったと思ってたんだもん」<br />
「誘拐ィ？」<br />
『ですね。それではここで事件直前の映像をもう一度見てみましょう』<br />
「そうだよー。私見ちゃったんだ、総理さんが警察の人に車に押し込まれてるとこ」<br />
『――ﾊﾟｼｬﾊﾟｼｬﾊﾟｼｬ総理が入室しましたﾊﾟｼｬﾊﾟｼｬﾊﾟｼｬﾊﾟｼｬ――』<br />
　荒神雷蔵の刺傷事件の激写映像が21インチのゆがんだ画面の中で再現される中、墨はネタのことを、烏は明日の弁当のことを、スズは明日の仕事のことを、アトリはあの日の朝に撮った写真のことを、杏ノ丞はアトリの発言のことを考えていて、そしてふと何気なくその映像に目を向けた時雨は――<br />
「総理の弁論が振るわない件か。オドロシの記者連中が若干嗅ぎまわっておったが」<br />
「うーん、スピード解決しちゃったのかな？　特高さんだし？」<br />
「三々、その写真まだ残ってるか？」<br />
「引き伸ばし失敗しちゃったやつなら」<br />
「見せてみろ」<br />
『このように、非常に手際のよい犯行で、周囲を警備していた特別高等警察は――』<br />
　アトリは立ち上がって、時雨の前を通って部屋を出た。杏ノ丞もそれを追う。時雨は映像の途絶え、専門家たちによってコメントされているテレビ画面からしかしまだ目が離せなかった。<br />
「ほらあ！　よく撮れてるでしょ、とくにこの肩に口のあるお兄さんが押し込んでるやつがベストショット」<br />
「なるほど&hellip;&hellip;なるほど&hellip;&hellip;ふ&hellip;&hellip;ふははははははは」杏ノ丞は肩を震わせた。「ふあはははっはははははははは！！！！　はははははははあははは！！！！　素晴らしい！！！！　三々、この写真、ネガごと吾輩に寄越さんか？」<br />
「えー&hellip;&hellip;」<br />
　高笑いは一番入口近くに座っていた時雨の茫然とした耳にも聞こえていた。彼は血相を変えて四〇四号室を出、そこでアトリと押し問答している杏ノ丞の袖を引っ張った。<br />
「この吾輩が金を出すと言っておるのだぞ！　天変地異が&hellip;&hellip;何だ逆見」<br />
「丞さん、それは&hellip;&hellip;それは駄目だ」<br />
「何だと？」<br />
　時雨の目はいつになく据わっていた。<br />
「駄目だ。よく&hellip;&hellip;よく分かるわけじゃないんですが、何かいろいろ、いろいろ噛み合わないものがあって&hellip;&hellip;もしかしたらそれは&hellip;&hellip;」<br />
　その視線を受けて、杏ノ丞の泥めいた瞳にも、何か光が差した。<br />
　そしてアトリに向き直り、神妙に腕組などして、暫く悶々と何やら唸ってからに曰く、<br />
「三々、その写真はなにかしら曰くつきのものらしいとこの優男の勘が言っておるそうだ。悪いことは言わん。吾輩に任せろ」<br />
　それを聞いた瞬間、時雨は又さらに茫然とした。<br />
　はてさて、何をと言ってか言わずか、この逆見時雨という青年は妖怪である。此の百足には理を勘ぐる力が兼ね備わっており、要するに偽を見抜くのだ。実に人というのは一日にして二百の嘘を吐くという。虚実入り乱れた世において、この力は目の上のたんこぶだったこともあったし、彼の命をほとんど救ったこともあったが、とにもかくにも普段は些事虚言も日常に渦に埋もれて久しかった。彼にとっては生まれてこのかた連れ添った力であったのだから当然至極である。<br />
　そしてこの力でもってまた多く、彼は人の言の中に獣妖を見据え戦々恐々とした経験があったが、今度のそれはまったく、いわば真逆の方向に向かって、あらたな怪物を発見してしまったわけだった。<br />
　この男は&hellip;&hellip;こいつは&hellip;&hellip;実際唖然とするほどあざやかに、狂おしいほど当然に、空前極まる実状に、こいつは&hellip;&hellip;<br />
「何も考えてない&hellip;&hellip;！」<br />
　のだった。<br />
「え、でももうこれ特高の人に渡しちゃったよ？　大学のそばの交番の人&hellip;&hellip;」<br />
「構わん。できればネガごと寄越せ。ぬかりなく処分してやろう。心配するな、吾輩の友人は政府批判の書き過ぎで窓べりに狙撃されたが、今だ西大病院でピンピン植物人間しておる」<br />
「それ駄目でしょう！」<br />
「うー&hellip;&hellip;著作者人格権は守ってね？」<br />
　フィルムを受けとりながら口元に笑みを隠せないかの男の言を、真っ白になって立ち尽くす時雨が無理くり訳すとでもしたらこうだろう。『鵞鳥を捕まえておいて、なぜ金を塗らないのか』。もしくは『逆見、良い口実を有難う！！！！　金ヅルゲットだぜ！！！』<br />
「じょ、丞さんッ」<br />
　逆見は強く杏ノ丞のほつれた袖を引っ張った。粟立つ臆病心のこれはもう意地だ。<br />
「それ本物ですよ、本当に、本当にやめたほうが」<br />
「さー、かー、さー、みーィ」<br />
　部屋中に戻っていくアトリを見送り、フィルムケースを懐に仕舞った彼はもう笑みを隠そうともせず、ゾッとするほど破天荒な微笑みを満面に浮き上がらせたまま、ガッと時雨の細首を腕で捕まえて抱き込んだ。<br />
「貴様は好かんのか？　ん？　吾輩はなァ、金と名誉の次に好きだぞ&hellip;&hellip;山ぞ歩いて海ぞ散り、泣く子は喚き死んだ爺は生き返り&hellip;&hellip;御国も臍からめくり上がる天上天下の大撹拌、驚天動地青天崩落の&hellip;&hellip;乱痴気騒ぎがなァ！！！！！！！！」<br />
　阿ァーーーッはっはっはっはっはっは！！！！！！！　と高笑いを古屋敷のびりびりと痺れるほどに響かせて韋駄天のごとく駆けだした彼を止められるものはもういなかった。時雨はその髪の靡いて階段室に消えていくのを見送ってから、びたん、と掌で額をぶったたいて、「いや、今のは春の夜の夢だったかもしれない」と思いながら踵を返した。<br />
「あっ笑点始まるわ、チャンネル替えて」<br />
「SHIDARE梅はああいうの出ないんですか？」<br />
「残酷なこと聞くなあ烏君&hellip;&hellip;」<br />
「ﾋﾟｰｯﾋﾟﾋﾟｯ」<br />
　アトリは主のいなくなった文机に膝を立てて上野公園の桜にカメラを向けていた。時雨は力なくその場にへたり込むと、とりあえず笑点を終わりまで見た。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
（つづくんですか？）<br />
（実は、つづきます）<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3', 'Hiragino Kaku Gothic Pro', メイリオ, Meiryo, Osaka, 'ＭＳ Ｐゴシック', 'MS P Gothic', sans-serif; font-size: 16px; text-align: -webkit-right;">　</span>]]>
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    <category>なんとかかんとか</category>
    <link>http://mojimoji333.3rin.net/Entry/31/</link>
    <pubDate>Tue, 29 Apr 2014 18:05:36 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>其の鵞鳥を金に塗れ　０</title>
    <description>
    <![CDATA[<div>
<div>　<br />
<br />
　春爛漫の上野は桜並木の公園――から路を隔ててこっち側。鉄筋詰めの古屋敷、何概館はいぶし銀の風体を四月の青空に晒してでんと立ち尽くしていた。</div>
<div>　中央の階段室を上がる途中にはふて腐ったような男衆がどん詰まりになっている。長いざんばらの黒髪を振り乱し段に大股広げて座り込む着はだけた着流しの男、覇気のないスウェットに身を包んでメモ帳にペンを走らせる青年、きちんと袴の裾を折ってしかし埃にまみれた床に座る男。</div>
<div>「暑くなってきましたね」</div>
<div>　袴の男が半紙の束で頭を仰ぎながら言った。</div>
<div>「茜が兄さんの頭見るだけで暑苦しいから夏になってもそのまんまだったらバリカンで削いだるっちゅうてましたわ」</div>
<div>「身の程知らずめが！　奴ごときには吾輩の髪に触れることも叶わんわ」</div>
<div>「揃える金もないんやなァ」</div>
<div>「随分吾輩と喋るのに慣れてきおったな」</div>
<div>「私もそろそろ筆を代えなきゃならないんですがね」</div>
<div>「仕事を安請け合いし過ぎなのだ馬鹿者が。貴様の辞書には交渉という単語はないのか」</div>
<div>「いやあ、どうしても気が付くと何時もの値段で引き受けることになってしまってまして」</div>
<div>「ったく、金のないということはこうも首の回らんものか畜生め！　どっかから金の鵞鳥が降って沸かんものか」</div>
<div>「金のネタぁ&hellip;&hellip;降って&hellip;&hellip;頼んます神さまっ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　ぐだぐだとくだを巻いているのだった。</div>
<div>　そこへカンカンと足音が響き渡り、下から赤い髪の青年がひょっこり姿を現した。</div>
<div>「まーた溜まって何しとんねん」</div>
<div>「力を溜めている」</div>
<div>「溜めっぱなしやんけ！　使う当てないやろ！」</div>
<div>「そういう茜は如何した？　ついにサボタージュを敢行したか。社交力45の名折れだな」</div>
<div>「何言うとんねん昼休みや！　墨の昼飯あらへんかったなと思ってダッシュで戻ってきてん」</div>
<div>「わ～いパパ～」</div>
<div>「誰がパパや！　ええからお前ははよネタ書け！」</div>
<div>　茜は無邪気に手を伸ばした墨の顔面におにぎりを投げつけた。</div>
<div>「パパ～吾輩の分は？」</div>
<div>「乗るな！　ないわ！　当然やろ！」</div>
<div>「丞さんまた食糧難ですか」</div>
<div>「部屋に戻ればキャベツがあるぞ。逆見も食うか？」</div>
<div>「遠慮します」</div>
<div>「ふむ、まあ食うと答えられようが譲らんがな。なぜその腰の入れ方で安い仕事を断れんものか」</div>
<div>「あ、そういえば蜜柑がありますよ」　</div>
<div>　逆見は懐からつるつるした蜜柑を取り出した。</div>
<div>「んんんんんん？　こいつは蜜柑？　実に吾輩の腹に収まりたそうな色をしとるが？」</div>
<div>「いいですよ、差し上げます」</div>
<div>「マジか？　後で金取ったりしない？」</div>
<div>「しませんよ。部屋に戻ればまだ一杯ありますから。差絵の仕事を受けた時に、報酬代わりに貰ったんです」</div>
<div>「現物支給で受けたのか&hellip;&hellip;」</div>
<div>「差絵の仕事なんて&hellip;&hellip;滅多に貰えないですから」</div>
<div>　逆見はにこにこと頬を綻ばせた。よっぽど嬉しかったのか。</div>
<div>「一杯あるなら僕らにも分けてくださいよ～」</div>
<div>　既に頬に米つぶを張り付け握り飯を貪っていた墨がやはり無邪気に手を伸ばす。</div>
<div>「いいですよ。持ってきます」</div>
<div>「よし、こうなったら蜜柑会と行くか」</div>
<div>「食べ物の下に会つけたら喰い放題になると思とるんかい！」</div>
<div>「チッチッチ、茜君よ。それは違う。暫定的に食べ放題が確定したものだけに会をつけるのだ。するとだいたい提供者は引っ込みがつかなくなる」</div>
<div>「詐欺や&hellip;&hellip;」</div>
<div>「茜～もうないの？」</div>
<div>「ないわ！！！　飯ぐらい自力で探さんかい！！！」</div>
<div>「とか言いながらチャンと飯持ってきてくれるんですわ兄さん」</div>
<div>「なるほど。吾輩も一台欲しいぐらいだ」</div>
<div>「誰が！！！　誰が！！！　誰&hellip;&hellip;」</div>
<div>「"誰が全自動バイトマシーンやねん"」</div>
<div>「誰が全自動バイトマシーンやねん！！！！」</div>
<div>「さらっと酷いこと漏らしてますよ墨さん&hellip;&hellip;蜜柑持ってきました」</div>
<div>「よくやった！！！　そこに並べろ！！！　蜜柑会だ！！！！」</div>
<div>　かくして白昼堂々の何概館で緊急蜜柑会が開催される運びとなり、一同は黙々と蜜柑の皮を剥いた。古惚けたコンクリ壁から染み出す埃と溶剤の臭いに柑橘の香りが上書きされた。</div>
<div>　そこへカシャ、とシャッター音が降り注ぐ。一同が顔を上げると、ちょうど赤毛の少女もカメラから顔を離すところだった。</div>
<div>「蜜柑？　いいなー私もほしい」</div>
<div>　はにかみながら降りてくる彼女はすぐ近くの西京藝大の生徒だった。この糞おんぼろ屋敷の何を気に入ったのか、塗装も欠片しか残らないような木枠のドアーや意味深な染みのついた壁が取り巻く中廊下、上野公園を見晴らす屋上でよく写真を取っている。</div>
<div>「どうぞ」逆見は蜜柑を投げた。アトリはそれをキャッチすると一番上の段に座った。</div>
<div>「なんで人は蜜柑を剥くとき無言になるんですやろ」</div>
<div>「蜜柑の皮を剥くという行為は柑橘と人間の対話なのだ。頑なな表皮を蹂躙し柔肌に歯を立て、果肉を引き千切って溢れだす甘汁を啜る&hellip;&hellip;それが蜜柑を食すということの本質。まあ吾輩は皮も食うけど」</div>
<div>「食うなや！」</div>
<div>　杏ノ丞は既に蜜柑の皮を頬張っていた。</div>
<div>「あ、あ、いいんですよ。まだいっぱいありますから蜜柑」</div>
<div>「多量とて無限ではない」</div>
<div>「至言や」</div>
<div>「ようわからんけどツッコんどいたほうがよさげな匂いがすんねんけどどうツッコんだらええかわからへん」</div>
<div>「もし腐らせるほどあるというなら吾輩に一箱譲らんか？　ナニ、ロハでとは言わん。部屋にある本を一冊譲ろう」</div>
<div>「本当ですか？　じゃああのフルカラーの新四十八手の資料を&hellip;&hellip;」</div>
<div>「杏ちゃんが羽振りいいとか気色悪いわ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「蜜柑一箱と本一冊って釣り合っとんのやろか？」</div>
<div>「杏ノ丞くんって対価交換でも羽振りいいとか言われちゃうんだ&hellip;&hellip;そういう人なんだ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「誤解を招くようなことを言うな茜。そもそもこの屋敷の中にある時点で吾輩の本棚にあろうが別の部屋にあろうが同じことだ」</div>
<div>「ただのジャイアニズムやったわ！　もうええわ！」</div>
<div>　茜が杏ノ丞の尊大な頭をコンビニのビニール袋でぶっ叩いたところで、またも軽快な足音が響いた。何概館ではどこを歩いても足音が階段室に響き渡るのだ。</div>
<div>「賑やかにやってんなあ。二階まで聞こえてきた」</div>
<div>「色男が来たぞ。階段を塞げ」</div>
<div>　墨と杏ノ丞が無言で段の上に脚を伸ばして座り直し、逆見もつられて脚を伸ばした。</div>
<div>「俺も蜜柑貰っていい？」</div>
<div>「どーぞ」</div>
<div>「くっ、動じてすらおらん」</div>
<div>　色摩は二階に兄弟で住んでいる俳優だった。つい先ほどまで相当に動いていたのか黒装束をびっしょりと汗に濡らしており、額の黒鉢巻もじっとりと垂れている。彼は塞がれていない上から二段目に座って蜜柑を受け取ると即座に頬張ってうめー生き返るーとこぼした。</div>
<div>「色摩、この間貴様の出てるドラマを見かけたぞ」</div>
<div>「おっ、あざっす」</div>
<div>「ひどい脚本だ。どこの中学生が書いたらあんな劣化が起こるのだ。原作が泣いておる」</div>
<div>「杏ノ丞さんは俺には厳しいなあ」</div>
<div>「演技に文句は付けとらん何を聞いとるんだお前は。ただ吾輩なら絶対にBパート以降はアクションを押し込んで最後は爆発で締めて次回へ送る」</div>
<div>「もう劣化とかそないレベルちゃうわそれ！」</div>
<div>「蜜柑もうちょっと持ってきますか」</div>
<div>「くださーい！　殺陣練ばっかで喉乾いてんですよ」</div>
<div>「はあい。丞さん、色摩さんに」</div>
<div>「喰らえ！」</div>
<div>　杏ノ丞は上段の色摩に向かって思いっきり蜜柑を投げつけた。アトリはすかさず放物線を描いた蜜柑にレンズを向ける。シャッター音。</div>
<div>「あー、ぶれちゃった」</div>
<div>　剛速球で投げられた蜜柑がはっと手を伸べた色摩の指先をかすめ、胸にぶつかる寸前の、してやったり顔の杏ノ丞と、ちょっと丞さんとそれを諌める逆見、蜜柑の皮に挑戦せんとする墨、果肉を頬張りながらそれを止めようとする茜、慌てる色摩。階段室の天窓から差し込む光とそれに舞い散り輝く埃どもによって妨害された光量も合わないピンボケだったが、彼女はにへらと口角を上げた。いい写真だった。</div>
<div></div>
<div>　彼らが鵞鳥の尾羽を指先にかすめるのは、それより少し後の話になる。</div>
</div>
<div><br />
<br />
</div>
<div>（つづくんですか？）</div>
<div>（つづいたらいいですね）</div>
<div><br />
　</div>]]>
    </description>
    <category>なんとかかんとか</category>
    <link>http://mojimoji333.3rin.net/Entry/29/</link>
    <pubDate>Fri, 25 Apr 2014 16:28:53 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>無題</title>
    <description>
    <![CDATA[<span style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium; line-height: 26.66666603088379px; background-color: #ffcc66;"></span>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　僕は小さい頃からおばあちゃんの作ってくれるクッキーが大好きだった。岩のようなチョコチップのごろごろ入った大きなクッキーだ。甘くて、サクサクして、ミルクの旨味とバターの風味が絶妙なハーモニーを醸し出している。ひと口食べれば口の周りがクッキーの粉だらけになって、そのおいしさで僕は一日のいやなことを全て忘れられた。工業地帯で両親を亡くして以来、ひどく落ち込んで、根の暗いのや親のいないのでクラスメイトから苛められていた僕のよりどころはおばあちゃんのクッキーと、生地の香りのする皺だらけの手のひらだけだった。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">「ウィル、またあのクソガキ共に殴られたのかい」</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　僕は毎日、メソメソしなからおばあちゃんのいるキッチンの勝手口へ帰ってきた。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　おばあちゃんは黙ってクッキーを焼いて、僕にくれた。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">「ほら、このクッキーを見てごらん。普通のと違うだろう」</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　その日、おばあちゃんの見せてくれたクッキーは、素晴らしい焼き色の黄金比によって、まるで真鍮のような輝きを秘めているように見えた。おばあちゃんの手のひらの上に乗っかった焼き立てのそいつは、まさに黄金のクッキーだった。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　僕はそれを食べた。いつものクッキーだけど、これ以上ないというほどおいしかった。思わず涙がこぼれた。おばあちゃんはミトンをはめたままの手で優しく僕の頭を撫でた。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">「時たまにこういうクッキーができることがあるんだよ。ナイスなおばあちゃんの、特に素晴らしいクッキーがね。クッキーは人を幸せにするのさ」</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　幼い僕は幸せに胸を詰まらせ、噎せながらクッキーを頬張った。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">&nbsp;</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">&nbsp;</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　僕は大人になっても、あの日のクッキーの味を忘れることはできなかった。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　仕事で失敗するたび、おばあちゃんの渡してくれた焼きたてのクッキーのことを思い出す。あのカリカリサクサクとしてしかし頑なでない優しい感覚を。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　社会に出るのは易しいことではなかった。僕は努力をして、信頼を勝ち取り、今まで僕を虐げてきた連中よりずっといい会社に就職した。それでも心は満たされなかった。仕事、仕事のための仕事、仕事のための仕事のための仕事、毎日同じことの繰り返しだ。これをいくら積み重ねてもその先に見える風景はなにもなかった。つまり僕は疲れていたのだ。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　そんなとき、実家のおばあちゃんから小包が送られてきた。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　おばあちゃんと離れて暮らすようになってからもうどれほど経つだろうか？　そういえばおばあちゃんと連絡を取ったのは何度ぐらいだっただろうか、はじめの頃はたまの休みには必ず顔を見せていたのに、近頃仕事詰めでめっきり会えなくなっていた。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　小包を開けると、中には湿気たクッキーが収まっていた。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">"たまには電話ぐらいしなさい"</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　メッセージカードは配達の揺れで箱の角のほうに追いやられている。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　僕は久々に、泣いた。クッキーを食べながら泣いた。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　そして決意した。この世界には幸福が足りない。クッキーが足りない。ささやかな幸福、ほんのひと時でもクッキーを齧り、大好きな人達と連絡を取るための時間が失われている。これは我慢ならない危機的状況だと感じた。誰が無機質なブロックを積み上げるだけの人生に満足できるだろう？　僕らにはクッキーが必要なのだ。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　僕は仕事を辞めた。そしてたくさんの小麦粉と砂糖、バター、ミルクを買って、クッキー作りをはじめた。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">&nbsp;</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">&nbsp;</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　だがそれは、一夕一朝のレシピと、遠い昔の思い出だけで成せるものではなかった。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　僕の焼くクッキーは、時に固すぎた。湿り過ぎていたことも、ほとんど真っ黒になってしまった事もあった。それでいて中は生焼けということもある。チョコチップは炸裂弾のようにはじけ飛んだ。とても食える代物ではなかった。僕は最初に作ったクッキーの束を、ほとんど食べることなく捨てざるを得なかった。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　僕はおばあちゃんに助言を求めた。電話を掛けようとしたが、恥ずかしかったので、小包で作ったクッキーを送ることにした。おばあちゃんからはすぐに返事が来た。そこにはクッキーの簡単なレシピ、焼き方のコツとアドバイス、それから"時々は遊びに来たっていいんだよ"の文字。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　僕は考えた。考えて、荷物を纏めた。そしておばあちゃんの待つ、白い壁の家へと向かった。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">&nbsp;</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">&nbsp;</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　おばあちゃんは僕の想像したよりずっと小さくなっていたが、変わらぬ笑顔で僕を迎えてくれた。僕はさっそくクッキー作りを教えてほしいとおばあちゃんに頼み込んだ。それから特訓が始まった。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　特訓は厳しかった。そこには床みがきや煙突掃除、ゴミ出しや買い物の荷物持ちなども含まれていたためだ。だが僕はそれを謹んでこなした。おばあちゃんは嬉しそうだった。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　やがて、インスタント生活でほとほとだめになっていた僕の舌は、おばあちゃんの田舎風ミネストローネで少しずつ失われた味覚を取り戻し、日曜大工や古いヒューズの交換などでプラモデルの組み立てに夢中になっていた頃の指先も思い出したためか、クッキー作りの腕は格段に上がった。とはいえ食べることが苦痛でなくなり、なかにはおばあちゃんもにやっと笑うようなうまくいったものがたまにある、ぐらいだったのだが。それでも僕はまったく諦める気はなかった。うまくいったクッキーの場合を研究し、小麦粉とミルクの配分からオーブンの温度、生地をこねる角度まで日夜研究を重ね、ついにはおばあちゃんと茶飲み仲間の集うホームパーティで「これね、うちの孫が焼いたのよ」とささやかに自慢して貰えるまでに至った。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">&nbsp;</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">&nbsp;</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　そんなある日、僕がいつも通りオーブンから鉄板を取り出した時、クッキーに異様な変化が起こっていることに気が付いた。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　八枚のクッキーを同時に焼いたはずが、そこにはたった一枚の大きなクッキー塊のみが存在していたのだ。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　ほどよい焼き色で、大きさや、吸収合併した経緯のことさえ考えなければ、かなりの成功作と言えただろう。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　僕は首を傾げながら、巨大クッキー塊をつついてみた。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　するとクッキー塊は突然ピシリと音を立てて割れてしまった。脆い。見た目以上に。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　しかし本当に不可思議だったのはここからだった。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　たしかに罅が入ってパックリ割れてしまったはずのクッキーが、元に戻っている。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　目がおかしくなったのかと思った。焼いている間にクッキーが割れてしまうことを恐れすぎて幻覚でも見たのかと。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　だが違う。たしかにクッキーをつついた僕の指の下でこいつは割れた。しかし元に戻っているのだ。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　しかも、増えている。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　最初に焼いたときと同じ大きさのクッキーが一枚、ちょうど割れ目のあったあたりのところにポンと出没しているのである。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　僕はポケットを叩くとビスケットが増える古い童謡を思い出した。そしてそのまましばらく、ぼうっと突っ立ったまま謎の巨大クッキー塊と向かい合っていたのである。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">&nbsp;</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">&nbsp;</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　その頃僕はまだ知らなかった。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　この一枚のクッキー・コアが、まさかあんな自体を引き起こすことになるなんて――。</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">&nbsp;</span></span></div>
<div><span face="MS PGothic" size="3" style="font-family: 'MS PGothic'; font-size: medium;"><span style="line-height: 26.66666603088379px;">　</span></span></div>
<div></div>]]>
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    <category>未選択</category>
    <link>http://mojimoji333.3rin.net/Entry/28/</link>
    <pubDate>Sun, 20 Apr 2014 04:38:36 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>エルフの里物語</title>
    <description>
    <![CDATA[「くっアベンジャーが強すぎる」<br />
　だが動画を見よ！　鉄バケツでも押さえれば止まる！　なんということだ！<br />
<br />
　攻略に動画が手放せなくなってきた。<br />
　神樹防衛も銀以下動画を参考に突撃し、ギリギリで撃破。<br />
　そして最難関壁/極級にチャレンジ。<br />
<br />
「くそ&hellip;&hellip;動画を参考にしたいがうちのソーマちゃんじゃダニエラの超火力には敵うはずもないし伝説の樹の下で待てるレベルのアイツもいない&hellip;&hellip;どうすれば&hellip;&hellip;ッ！」<br />
　せっかくCCしたソーマちゃん「どうせ&hellip;&hellip;どうせ私は範囲しかとりえがないですよ！　王子のバカっ！　もう知らないっ！」<br />
「そんなこと言わないでくれ&hellip;&hellip;俺のCC弓はお前しかいないんだ」<br />
　そこで動画を参考に作戦を変更し、左にソーマちゃん(50CC30)/奥様は魔女（未CC32）を設置、樹の右横に王子(94)、左雑魚抑えにクリッサ(未CC32)、ソーマちゃんの火力補助に左下へベラ（未CC34）を設置、王子の下にエキドナ（29）。左は全員スキル点火で樹の根本まで追撃し、ぎりぎりで仕留める。右雑魚は王子が引き受ける。ここまではおｋ。<br />
　その後ベラは必要なくなるので撤退、左のアベをクリッサに引きとめてもらっているうちに右に出てきたエルフ弓をミーシャ（未CC20好感度0）で抑え、直後すぐエルフ魔に焼かれそうになるのでアリサ(50CC28)でミーシャを援護。あとカリオペ（50CC20）を出してエルフ魔と直接魔法対決。してる間に左でクリッサが死にかけるので撤退し、奥様とソーマちゃんにお任せ。<br />
　第三陣。全てはここから。右からくるアベを鎧で抑え、左はスキル全開/エキドナ点火で右から漏れてくる雑魚ごと焼き殺す。左のアベの後からくる雑魚をまた鎧で抑え&hellip;&hellip;などしている間に兵を出せる隙間がなくなり、やがてカリオペか鎧が陥落し右が崩壊する。何度やっても陥落する。<br />
<br />
「なぜだ&hellip;&hellip;なぜだ！　右の鎧を今一番固いベルニス（未CC44）にしても落ちる！　カリオペが落ちるッ&hellip;&hellip;！」<br />
<br />
　ここでスタミナを無駄にすること数回（超出費）、不意に樹の下に待たせたフィリス（未CC20）が転機をもたらす。<br />
　なんと右からくるメイジの攻撃を彼女が受け流し、しかもエキドナが回復させてくれるため完全な避雷針と化したのだ。<br />
　出撃枠については直後、左は鎧とソーマちゃんだけで抑えられるということに気が付き、奥様に撤退してもらうことで解決。突破口を開く。<br />
　左鎧に火力も防御もある黒幼女（未CC23だがソーマちゃんに二発エルフ魔の攻撃を当てさせると生き残れる）、右鎧にベルニス。左アベに攻撃が届かなくなった時点で奥様を撤退し、根本にフィリスを待たせると右戦線が生存！　ビンゴ！　それでもコワイので左沈黙後ディーナを撤退してエルフ魔にレアン（未CC47）を差し込み殴り殺す。右上にヴァレリー（未CC36）、その下にバル爺（未CC29）を置き、ぎりぎりまでベルニスに粘って貰ってからアベを解放。王子にも目と鼻の先まで待ってもらうが右戦線を紙一重で抜けてくるアベ。神樹封鎖できません！　そんな！<br />
　&hellip;&hellip;いや待て！　まだ俺たちには、俺たちの左戦線にはソーマちゃんがいるんだ！<br />
　なんと、「動画のダニエラの火力は真似できねえよな&hellip;&hellip;」と言われ意気消沈していたソーマちゃんがここで輝いた！　スキルを点火させると根本まで届く！　そこへエキドナの援護射撃も相まって、アベンジャーは神樹を目前にして息絶えた。俺達は勝った。勝ったんだ。<br />
　&hellip;&hellip;やったぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！　初めて！　☆３を！　全部！　コンプ！　試練イベをコンプしたぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！<br />
　育成と作戦に手ごたえを感じた一日だった。（無駄にしたスタミナの数/たぶん30ぐらい）<br />
<br />
<br />
]]>
    </description>
    <category>アイギス</category>
    <link>http://mojimoji333.3rin.net/Entry/27/</link>
    <pubDate>Fri, 11 Apr 2014 15:21:41 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>山も落ちも意味もないヘブンイレブンの日々</title>
    <description>
    <![CDATA[以下黙々とヘブンイレブンの話が続きます<br />
<br />
<hr /><br />
「いらっしゃいませ！」<br />
　祁荅院綾子の笑顔は午後のヘブンイレブンのオアシスだった。この微笑みを目当てにやってくる学校帰りがどれほどいるか。わずかな空調を受けてふわふわと髪が舞い、その表情もどことなくふわふわと浮かんで見える。最初は髪を結わえることなくレジに立とうとしたので、おでんに毛先が浸かる非常事態もあったが、今はポニーテールに結わえることを店長に頼み込まれている。<br />
「お預かりします」<br />
　にこにこしながらレジにやってきた客の商品を受け取る。客のニット帽を被った男が出したのは十銭のライターだった。<br />
「はい、十銭になります」<br />
　男はそっと五〇圓札を出した。<br />
　金勘定が苦手で、普通の三倍ほどの時間をかけてレジ研修を受けた綾子だったが、今では他の店員より少しのんびりしたぐらいの速度で釣銭を返せるようになっていた。店長もレジを彼女に任せて品出しに集中できるぐらいの信頼で、彼女は誇らしげににこにこしている。<br />
「四〇九圓と九〇銭のお返しです～」<br />
「アー」男はがまぐちの中を覗き込んで言った。「しくじったわー、やっぱり十銭あったわー、すまんけどこれと釣りの四〇九圓九〇銭足して五〇圓札に戻してくれへんか」<br />
「え&hellip;&hellip;」<br />
「なんや？　この店は両替もしてくれへんのかいな、サービス悪いわー、これだからバイトは」<br />
「ええ、ええ、大丈夫です！　このお釣りと&hellip;&hellip;」<br />
「ほい」<br />
「お客様の十銭と足して、五〇圓！　はい、お返しです」<br />
　男は五圓札をひったくると、そのまま出口へ向かった。&hellip;&hellip;が、がまぐちに札をしまおうとして、やっぱり立ち止まり、踵を返して戻ってきた。<br />
「あー悪いわ、ちょと財布キツいねん、この拾圓五枚とそこの釣りの五〇圓足して百圓にしてくれへんか」<br />
　男はがまぐちからしわしわの拾圓五枚を引っ張り出し、釣銭受けに勢いよく投げ乗せる。<br />
「え、あ、は、はい」<br />
　綾子はそっと紙幣と硬貨を数えた。拾圓札が男の出した五枚を合わせて九枚、壱圓札が九枚、十銭銅貨が十枚。しめて百圓。間違いない。<br />
「はい、百圓です」<br />
「祁荅院さ&hellip;&hellip;どうしたのこのお札」<br />
　男が札を受け取ろうとした瞬間、手書きの在庫表束を抱えた店長がレジの中に入ってきた。<br />
　男は綾子の手から百圓札をひったくると、大股で出口へ歩き去る。<br />
「あ、さっきのお客様が両替を」<br />
「両替&hellip;&hellip;？」<br />
　嫌な予感が店長の脳裏を駆け巡る。<br />
「てんちょー、おはよっす&hellip;&hellip;うわっ！」<br />
　そこへタイミングよく、山下が出口へ現れ、男と勢いよく衝突した。<br />
「山下！　そいつ逃がすな！」<br />
「エ！？」<br />
「チッ」<br />
　男は山下を蹴飛ばし、走り出す。<br />
「どわッ！」山下はもんどりうって倒れたが、「畜生！」すぐに立ち上がって男を追う。<br />
「待て！　&hellip;&hellip;ッうわああああああ」<br />
　店長も後を追おうとしてマットレスに足を引っかけて転んだ。<br />
「え、ど、ど、どうしましょう&hellip;&hellip;！」<br />
　綾子がおろおろし、居合わせた客が目を丸くする中、店長は床の跡のついた顔を上げ、眼鏡を拾うと、彼女を振り返る。<br />
「ちょっと説明できるかな、祁荅院さん」<br />
「あ、は、はい。さっきのお客様が&hellip;&hellip;」<br />
　綾子はことの成り行きを説明した。つっかかる彼女の言葉を相槌を打ってどうにか引き出した店長は、顛末を聞き終えるとそっと110番に通報した。<br />
<br />
<br />
「災難でしたね」<br />
　一難去って後日、詐欺犯が逮捕されたことを報告しに来たのは座木だった。彼女はつい数か月前までここで働いていたが、その勤勉さで見事宮仕え――特高警察への勤務を勝ち得たのだ。<br />
「まあね。でも良かったよ、山下がうまくやってくれたんだろ」<br />
　犯人を追跡した山下は、そいつに飛びついて往来のど真ん中で取っ組み合いをしたそうだ。最終的には犯人のズボンを引きずり剥ぎ、相手はパンツ一丁で西京の街を駆け抜けていったという。当然その状態で遠くへ逃げることもできず、男はすぐにお縄になった。山下は薄汚れたズボンを掲げて「捕ったどーーーー！！！」と雄叫びを上げて往来から謎の拍手喝采を受け取ったという。<br />
「でも、いったいどうしてどこで五〇圓がなくなってしまったんでしょう？」<br />
　綾子はレジに立つたびずっとそのことを考えている。<br />
「つまりね、両替のときに、本来対価で渡した、つまりその前の両替で引きかえた分のお金をそっくり奪ってしまってるんだ。わかる？」<br />
「うーん&hellip;&hellip;」綾子は両手の指を折り折りしている。<br />
「こりゃうちも両替禁止しなきゃな」<br />
　店長と座木は笑った。<br />
<br />
<hr />]]>
    </description>
    <category>未選択</category>
    <link>http://mojimoji333.3rin.net/Entry/26/</link>
    <pubDate>Mon, 31 Mar 2014 08:36:27 GMT</pubDate>
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