忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

物患い2


 家の中は暖かかった。雨戸がところどころ開いているとは思えないほどだ。まるで結界が張られているかのように、縁側の板の間に上がった瞬間からそう感じられた。
「どうぞ」
 月子は郵便屋を居間に案内した。炬燵がぽんと一つあり、月子の読んでいた漫画雑誌が投げ出してある。薬棚に茶箪笥、ごく普通の家だ。
 郵便屋は鼻をひくひくさせた。「薬の香りがする」
「薬屋だし」月子はぶっきらぼうに言った。そして棚からかりんとうを袋ごと取り出し、無造作に炬燵の上に投げ出す。「どうぞ」
「どうも」郵便屋は炬燵におさまった。掘り炬燵だ。とても暖かい。彼は思わずため息をついた。月子も炬燵に潜り込み、部屋にはしんしんと加湿器がわりのやかんがストーブの上で湯気を吐く音だけが響いた。
「ほら」月子が手を伸ばした。
「いただきます」郵便屋は鋼鉄の右手でかりんとうを取って食べた。
「違う」月子が言ったので、郵便屋は思わずかりんとうを途中で口から放したが、月子はさらに呆れたような顔で「違う」と言った。
「上着。縫うから」
「あ」郵便屋は慌ててかりんとうを口に頬張ると、制服の上着を脱いだ。「お願いします」
 月子は無言でそれを受けとり、背中を伸ばして後ろの押入れから針箱を引っ張り出すと、黙々と縫い出した。

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Copyright © あっ死んでる : All rights reserved

「あっ死んでる」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]