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おまえたちがだいきらいだ

 セント・クライストの生誕祭前夜、繁華街は金色に飾り付けられた無生物の杉の木で賑わっていた。この風習を多々良系列が広め商業的に大きな意味を持ち始めたのは月子でも思い出せるぐらい最近のことだったが、それらは既にいっぱしの年中行事として流行り尽くしていた。
「月ちゃん、ほら」
 そういえば郵便屋もいやに浮かれていた。
「会社で貰ったんだ。でも恥ずかしいから、月ちゃん、使いなよ」
 彼が手渡してきたのは、真っ赤な三角帽の先に白い綿のついたセントニコラの正装の記号だった。
「自分が付けて恥ずかしいものを、人に押し付けようっての?」
 月子はいつもの仏頂面も極めたりといった顰め面をしてそれを受け取った。
「どうせ家から出ないんだろう? 防寒用に使えばいいじゃないか」
「あんたが使え!」
 そして郵便屋の生身の右腕にそれを叩きつけると、荒くれ犬のゲンのリードを引き、引き摺るようにして散歩に出かけた。

 夕暮れに沈もうという大通りの街路樹は軒並み電飾に包まれ眩く輝いていた。赤、青、緑、桃、黄の瞬きが渦を巻き、いくつかは枯れ枝に沿ってぴかぴかと繁華街の明るい夜をさらに照らし出している。黄昏の陽光が筋を残して消え去り、淡い紺に塗り込められていく街並みに浮かぶイルミネーションは、駅前通りのネオンよりずっと穏やかに、かつ華々しく道の両脇を彩っている。
 しかし月子は目を伏せっていた。
 平日だというのに午後五時の通りは人が多い。連れ立った若者からのろのろ歩くアベック、ちょろちょろ歩き回る子供たちを従えた家族にコートに身を包んだビジネスマンまでもが飾り上げられた空を思わず見上げ、写真を撮るものもいる。ビルディングの多くもさりげなく着飾り、窓から洩れる明りも含め街は祭りの様相だ。プレゼントを配るセントニコラウスの恰好で、無料配布のティッシュを配るお姉さんが月子に、笑顔でそれを差し出した。月子は受け取らなかった。彼女はさっと目を逸らしたつもりだったが、見ようによっては動揺して急に俯いたようにも感じられたかもしれなかった。

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